Special You and I...Dante

 

俺には好きな人がいる。
彼女は俺より2つ年上。
涼しげな雰囲気だけど優しいお姉さんって感じのステキな女性だ。
また俺は、彼女に会うまで自分が生きている事をとても悔やんでいた。
だけどあの日から俺は変わった。
 

 
『貴方が生きていて本当に良かった…。』
 

 
そう言って抱きしめてくれた彼女ぬくもりを俺は絶対に忘れない…
 

 

 

 
 

 

 
 
 
「きゃああっ!!」
 

 
ゴロゴロダーーン!!
 

 
「えっカイリさん?!!」
 

 
平和平和な昼下がり。
今日は俺以外の住人は誰もいない日だった。
しかし、広々としたリビングでのんびり横になっていると、
階段の方から屋敷の家政婦カイリさんの悲鳴と転げ落ちる音が聞こえ平和は一瞬にして幕を下ろした。
 

 

 
「ったたたぁ…;」
「大丈夫ッスか?!ってうわ!?ちょ起きて下さい!!」
 

 

 
急いで階段まで行くとカイリさんが大量のシーツに包まって…
というより絡まって倒れていた。
俺は急いで彼女に駆け寄り、座らせるように抱き上げた。
 

 

 
「あ、ダンテありがと。」
「立てる?肩貸しましょっか?」
「大丈…った;〜〜〜〜〜っう〜〜〜!!」
 

 

 
床に突っ伏していた彼女は苦笑しながら上体を起こして腰を押さえる。
俺は彼女の肩に手を添えたままの状態でゆっくり立たせようと体を持ち上げる。
しかし彼女は立ち上がろうとするが顔をしかめまた座り直してしまった。
 

 

 
「あ、足捻ってるじゃないッスか!なんで一気にこんなに運ぶんスか。」
「えっと…面倒だったから…

 

 

 
散らかるシーツはきっと住人全員分…。
つまりこの中には俺の分も入っているというわけだ。
彼女の不注意と言えどもなんだか申し訳なくなり俺はしゃがみ込みシーツをかき集める。
 

 

 
「はぁ、そういう時は俺を呼んで下さいッス、暇してたし。」
「そんな、私の仕事だし。」
「でもケガなんてされた方が心配だし困るんス!」
「…ご、ごめんなさい。」
「…だっ、だから、一人でキツイと思ったら呼んで下さいよね!分かれば…いい
んスけど…。…っ…とりあえずこれ片付けてくるッスね。」

 

 
 

 
しゅんとした彼女が可愛い。可愛過ぎる…好きな女の子にこんなふうに謝られて
 キュンとしない男がいるか?!いやいねぇよな!
俺はかなり理性的なタイプだが彼女を前にした場合なら話は違う。
俺はワナワナ震えて気持ちを抑えようとシーツを乱暴にまとめてクリーンルームまで持っていくことにした。
 

 

 
「ちょっと待ってて下さいね!」
 

 

 
少し赤らんだ頬を隠すようにシーツを抱える。
今屋敷には俺と彼女以外いないから誰かに見られるわけじゃないけどなんだか恥ずかしい。
こういう時に限って道のりが近い気がした。
クリーンルームに着くとさっとシーツを洗濯物カゴに放り込み、救急箱を手にしてUターン。
顔の赤らみがひかないまま彼女の元に戻ることになった。
 

 
 
 
 
 

 

 
「今日の家事どうしよ…。」
「いいッスよ一日くらい。今日は手当して安静にしてて。で、明日からまた美味
しいご飯作って下さいッス☆」
 

 

 
壁にもたれてため息をつく彼女の横に座り、元気づける。
彼女は物凄く真面目な性格。
俺が知っている限りじゃサボっている所なんて見たことがない。
いつも料理をしているか、庭の手入れをしているか、買い物に行っているか…
それ以外の事でも必ず家事を済ませてからしている。
 

 

 

 

 

 
「ホント真面目ッスよね、カイリさんって。ちょっと生真面目な気もするけど。」
「よく言われるけど…。私って真面目ってあんまり好きじゃないの。よく言われるから余計。」
 

 

 

 

 

 

 
彼女が真面目に良いイメージを持たないのも分かる。
俺も学校に行っていたときは学校に迷惑にならないように、
屋敷にすむようになってからは屋敷に迷惑がかからないようにひたすら真面目に静かに過ごしていた。
だからそんな真面目すぎる生活はつまらないものだし、
その生活から抜け出せない自分の立場がすごく嫌だった。
ただその反動は大きくて…
 

 

  
「分かる分かる。…俺も真面目に過ごして頑張っちゃってたせいか
周りが騒いで俺キレちゃったッスもん。
おかげで謹慎処分、だから謹慎が解けて学校行くようになったら
不真面目キャラで行くつもりなんス☆」
「ふふっ、ダンテは充分不真面目キャラだよ?」
「…へへっ、やっぱり?……あ!手当て!俺救急箱持ってきたんで!」
 

 

 
お互いに笑い合う。なんだかすごく居心地が良い。
俺はハッと気づいて持ってきた救急箱を開いて彼女の足を手当する。
 

 

 
「…っ。」
「あっすんませんッ!結構ひどく捻ってるんだ…。とりあえず場所移動しましょ。」
 

 

  

 
俺は彼女のケガが思っていたより酷かった事に驚いた。いつまでも廊下に座り込
んでもいられないのでリビングに移動しようと彼女の方に背中を向けた。
 

 

 
「…?」
「はい、背負うんで乗って下さいッス。」
「えっ!?いや、重いからいいよ!」
「動けないくせに口答えしないで下さい、こういう時くらい大人しく背負われて下さい。」
 

 

 

  
顔を真っ赤にした彼女はブンブン首を横に振る。
ここにきて何を拒む権利があるんだろうか…。
俺は背を向けたままの状態で厳しく彼女に言い付ける。
 

  

 

 
「…重いからね。重いんだからね!」
「あーもう、大丈夫ッスから!」
 

 

 
観念した彼女は恥ずかしそうに何度もそう言い、ゆっくり俺の背中に乗っかる。
あたたかくてやわらかい感触にドキッとした。俺は彼女のスタンバイが出来た頃に立ち上がる。
 

 

 
「わっ!」
「あ、ちゃんと掴まっとかないと危ないッスよ。」
「うん…。」
 

 

  
立ち上がった拍子に俺の服を掴んでいた彼女の手が離れた。
彼女はびくびくしながら俺の首周りに腕を絡め、
身体と身体の間の隙間がないようピッタリくっついた。
ふわっと彼女の優しい香りがした。
前に抱きしめて貰った時と同じ香り。すごく安心する。
でも…今彼女は俺にピッタリくっついている…!
大好きな彼女がくっついているわけだ!!しかも俺が背負っている…振り向いたら…
 

 

 
「…ん?」
 

 

 
キスだってすぐできるような距離なんだぁ…ッ!!!
 

 

 
「ダンテ?どうしたの?」
 

 

 
あぁもうこの人は……ッ!!
頼むからそんな無防備な姿で俺を見つめないでくれ…!!

 

  

 
「なっ、なんでもないッス!じゃっ、じゃあリビング行きますね!!」
「うん、ごめんね。」
 

 

 
俺は漸く欲望との戦いに勝利し、高鳴る鼓動に気づかれないうちに急いでリビングに向かった。
 

 
 
  
 

 
「とりあえず冷やして湿布して安静にしとこ、それでもダメなら明日クリスに病院
連れてってもらった方がいいッスね。」
「うん、色々ごめんね。」
「謝りすぎ。俺、カイリさんの役に立てただけですっげぇ嬉しいんス。
だから気にしないで下さいッス。」
「…ありがとう。」
 

 

 
リビングのソファに座って氷の入った袋を患部にあてながら彼女は小さく笑った。
 

 

 
「…そういえばダンテって結構力あったんだね。私のことひょいって背負ってくれたし。」
「そりゃあ俺だって男ッス、カイリさんくらいなら軽いッスよ。」
 

 

 
彼女の隣に腰掛け様子を見ていると、彼女は意外そうに俺を見て呟く。
  

 

   
「いつも私の方がお世話してたから今日は立場が逆になっちゃった。…なんか驚くことばっかり。」
「いつも俺の事子供扱いしてるからッスよ!」
「ごっごめんって!」
「…これで分かったでしょ?俺だって…」
 

 

    
いかにいつも俺が異性として認識されていないかが分かる。
俺は機嫌を損ねたふりをして体を翻し彼女の後ろの背もたれに両手をつき上から見下ろす。
 

 

  

 
「!」
「簡単にアンタを押し倒すことくらいできるんだぜ?」
「!!!」
  

 

   
顔を近づけて耳元で囁くと彼女は細い肩を震わせた。その男慣れしていない反応
がとても可愛くてもっと虐めたくなった。
 

 

 

 
「…もちろんそんなことしないんで安心して下さいッス☆」
「…っ、びっくりした…。」
 

 

 


でも虐めすぎたら嫌われるから正直出来ない…。
心底安心した顔をして自分の胸に両手を当てている。
 

 

 
「カイリさんって…」
「え?」
「マジかわいいな。」
「ちょっ!!!もう!からかわないで!!」
 

 

 

 
ばふっ
 

 

 
「わっごめんって!からかってないから怒らないで下さいッス!」
 

 

 
照れたカイリさんにクッションを投げつけられる。からかってなんかないのに…。
いつもこんな感じで本気にとってもらえないのが悲しい。
 

 

 


「あー今日は自室で安静にしといて!…よっ」
「わひゃっ!」
 

 

 
真っ赤になってブツブツ言う彼女を抱き上げる。所謂お姫様抱っこっていう形で。
 

 

 
「えっ!ちょっとダンテ!」
「そんな足で二階まで上がれないっしょ?おんぶよりこっちのが緊張しないんで。」
「緊張?」
 

 

 
ジタバタと俺の腕の中で暴れる彼女はなんとかして下りようとするがそうはいかない。
俺が階段の方にさっさと歩き出すと、彼女は俺の言葉に目を丸くさせた。
 

 

 
…ミスった。
 

 

 
おんぶにしたら胸は背中に当たるし振り向いたら顔近いし、
おんぶ所じゃないなんて…言えるわけがない。
  

 

 
「え、いやっ、女の子ってお姫様抱っこ好きなんスよね?」
「個人の好みでしょ…。」
 

 

 
苦し紛れの弁解に呆れたようなため息をつく彼女。
だけどもう腕から逃れようなんてしていない。
そんな様子の彼女を見て俺は小さく笑った。
 

 

 
「…カイリさんは?」
 

「…好き。」

 
「…へへっ。」
 

 

 
別の形で聞きたかった言葉だけど、これはこれで聞けただけで充分かな。
でもいつかは、本当の意味で俺の事を好きって言って欲しい。