PrologueWelcome to Elusion

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扉を開けた途端いきなりハサミが私達目掛けて飛んで来た。
しかもそれを現実離れした早さで見事に好青年が受け止める。
部屋の中も見えないし何がなんだかよく分からなくなり、私はただうろたえるばかり。

  

 

   

「アルフの隣りなんか危な過ぎる!絶対俺の隣り!!」
「お子様なお前じゃ役不足に決まってるだろ?こういう時は大人のお兄さんに任せときなさい、ダンテ君?」
  

 

「ダメったらダメだー!!」

  

 

居間ではどうやら男性が二人いるらしい。しかもケンカしているようだ。
正直こういう輩にはあまり近寄りたくない、声もかけたくない。ましてや注意や仲裁なんて以ての外…

 

 

「ダンテ?アルフ?君達は一体何をしているのですか…?」

 

  

なんて思っていたら好青年が躊躇せず入って行ったよ。しかもめちゃくちゃ笑顔。
真黒な笑みってこれなんだ…。つくづくこの人には毎回新境地を見せて貰っている気がする。
     

    

「げっ!クリス…;;」

  
「おやおやぁ〜…厄介なヤツがきちゃったね〜」

 
「今日は新しいメイドさんがくるから大人しくしておきなさいとあれ程言っていましたよね?
 しかしなぜ、このようなものが飛び交っているのでしょうか…?」

 

 

ニンマリとどす黒い笑顔で先程飛んで来たハサミを鈍く光らせ二人に詰め寄るクリスと呼ばれた好青年。
ああ、このクリスさんが屋敷の最強人物なんだと、屋敷内ピラミッドを頭の中で形成する。
分かりやすい一目瞭然な関係性に何よりである。

 

「だ、だってアルフがメイドの部屋は自分の部屋の隣りだって言い張るんだぜ!
 それすっげぇ危ねぇじゃん?!っていうかズリィしよ!」

「何を言う!もしもな事態が起きたらの事を考えて、
真っ先に対応できる大人の男の近くにいるべきなのは当然だろう!」

「もしもな事態はお前が引き起こしそうだから余計に心配なんだよ!!」

「そんなことあるわけなかろう!?レディを守るのが男の務めっ!!」

「ケッ、信用できるかよ!このドスケベき…」
  

 

  

パンパン!

   

 

  
「はいはい、ケンカはそこまで!」

 

ヒートアップする二人のケンカを深くため息をついたクリスさんは爽やかに、勿論笑顔で止めた。

 

「二人とも?そのレディがもう来られているのに、そんな醜い争いをしてて良いんですか?」
「え、マジ?!」
「おっと、それなら早く言ってよね。」

 

 

なんとも調子の良い人達だ…。ネクタイを直したりシャツをキレイに着直そうとしているのが
隙間からチラチラと見えている。未だひっそりとクリスさんの後ろに隠れるようにして
待機している私はやれやれと言わんばかりの顔をして同じように深い深いため息をついた。

   

 

「クリス!早く紹介しろよな!」

 
「そうだよ、待ちくたびれたんだから〜」

 
「まぁまぁ、そんなに焦らないで下さい。…さぁ、どうぞ?」

 

 

やたらと急かす二人をなだめるとクリスさんはスッと手を差し延べて私を招き入れた。

 

 

「は、初めまして!今日からお世話になります、カイリ・ファンナイトと申します。よろしくお願い致します!」

「おー♪よろしくよろしくっ!いやぁ、やっぱり女の子がいると華があっていいねぇ〜♪」
 
「は、はぁ…」

 

ズイズイと出て来たのは随分とカッコいい…だけど頭も性格も軽そうなお兄さん。
赤茶色の髪に魅惑的な赤目がとても印象的で同系色のえんじ色のシャツがよく似合っている。

   

 

  

 

「俺はアルフ。アルフ・ノクターン、ちなみに23才☆彼女ナシ歴三か月!よろしくね。カイリちゃん☆」

 
「はい、よろしくお願いします、アルフさん。」

 
「はははっ、そんなに固くならないでよ〜気楽に行こう気楽に☆」

 

 

アルフさんは私の肩をポンポン叩いて楽しそうに笑う。それにしても随分ハイテンションというか脳天気な人だ…。

 

 

「ほら、何やってんだよ、お前も自己紹介っ!」

 
「分かってるっつの!俺はダンテ・サンローラン18才☆よろしくな!」

 

タイミングを逃したのか、アルフさんに言われてハッと気付いた隣りの青年、ダンテがにっかりと歯を見せて笑った。

 

「はい、よろしくお願いします!…ってことは、私より2コ年下なんだ…」

 
「え、年上!?・・・あ、えと、す、すんません;」

 
「あ、いや気にしないで下さい!2つしか変わりませんし、ましてや私は雇われ側ですから・・・!」

 

よっぽど私が幼く見えたのか、ダンテ君は極度に驚いた顔をしてオロオロする。
なぜだろう。自分では結構ふけ顔だと思っていたんだけどなぁ…。
ダンテ君が年下と分かったせいか、なんだか急に可愛らしいと思ってしまった。

   

 

 

「ま、俺の事はダンテって呼び捨てで呼んじゃって下さいッス!」

…体育会系!!?〜ッスなんて普段あまり聞き慣れないから一瞬戸惑ってしまった。
 
    

「いや、でもやっぱり立場的には…!」

 
「敬語とかマジでいらないッスから!」

 
「え。だけど…!」

 
「はいはい。まぁ、フレンドリーな関係を築くのも大切な事です。
 カイリさん、ここは折れて呼び捨てタメ口にしてあげて下さい。
 こうなったらダンテは梃でも動きませんし。」

  

 

どちらも一歩も引かない私とダンテ君の間に先程と同じように割って入った
クリスさんはお手前の話術で説得。

   

 

「ん〜、分かりました。」

  

 
「でもダンテは目上の方への言葉遣いの礼儀としてその口調でも構わないから
 敬語を使う事。いいですね?」

 

 
「へーい。」

  

  
「あぁ、スッカリ忘れていました!…申し遅れました、
 屋敷主のクリス・フィルマンです。どうぞよろしくお願い致します。」

  

 
「あ、はい!こちらこそ、お世話になります!
 不束ものですが、精一杯頑張らさせて頂きます!」
  

 

「じゃあお部屋までご案内…」

  

 
「あ、勿論俺の隣りにしてね〜♪」

 
「ダメ!!絶対ダメ!!」

  

 

  

カツンカツン…

 

「…うるさい…また騒いでいるのか…?」

 
「あぁ、ワイズ。寝ている所悪いね。」

 

 

和やかな雰囲気がしばし続いていたら、入口の方からゆったりとした足音が近付き、
見覚えのある顔が相も変わらず眉間に皺を寄せて現れた。

   

   

「あ!!さっきの冷血漢!!」

 

 

 

『ブッ!!あっはははは!!』

  

 

 

咄嗟に私が叫んでしまったせいか、一気に笑いが巻き起こった。
ダンテとアルフさんは笑い転げてるし、クリスさんはクスクスと
どこか微笑ましそうに笑ってる。

 
ワイズと呼ばれたさっきの美青年は私を見るとまた不機嫌そうに顔をしかめた。
  

 
    

   

「…」

 
「あ、すっすみません:」

 
「…別に。
気にしていない。

  

 

めちゃくちゃ気にしているだろう、そんな表情のワイズさん。
私はバツが悪そうに、やってしまったと小さく呟いた。

   
 

   
「あっはは!面白い子だね〜!…カイリちゃん、コイツはワイズ・ワーグナー、
 君と同じ20才☆ワイズ、この子はカイリ・ファンナイトちゃん、
 今日でここのメイドさんデビューなんだよ〜♪」

 
「分かったから、ベタベタ引っ付くな気色悪い。」

 

さっきからずっとテンションが上がりっぱなしのアルフさんはワイズさんの肩を無理矢理組む。
ワイズさんは心底迷惑そうに絡み付いてくる腕をグイグイどけようとする。

 

「ま、口は悪いけど顔は良いから許してやってよ♪」

 
「性格は微妙ッスけどね〜」

 
「はぁ…;」

 

ケタケタと笑うアルフさんの横でつまらなさそうにそっぽ向くダンテ君。
どうやらワイズさんとはあまり仲がよろしくないご様子。

   

 

「あーあぁ。ワイズが女の子だったら良かったんだけどなぁ〜」

 

 

一瞬アルフさんとワイズさんは意味深な関係なんだと、
触れてはいけない物に触れてしまった気持ちになった。
アルフさんの言い方は本気なのか冗談なのか境を見極めるのがとても難しい。

  

 

「気色悪い事言うな!女は嫌いだ!」

    

 

しかし肩に乗っかる腕を振りほどいたワイズさんを見て私の疑惑は消されたのだが、
女嫌いと聞き些かショックである。

 

「こら、ワイズ。女性がいる前での発言ではありませんよ?」
 

 

「…寝る…。」

 

 

何か言いた気に、だけど意地を張るようにワイズさんは私をチラリと見たが、
再びドアの向こうへと去って行った。

    

  

   

   

「…やれやれ、ワイズも困った子ですね…。」

 
「私、さっきもあの人に会ったんですけど、どうもお気に召さなかったみたいで;」

 

 

ため息混じりにクリスさんは苦笑する。しかし、出会って初っ端からイメージ悪い
なんてがっかりだ。これからちゃんとやっていけるか不安になってくる。

  

 

「別に心配ないッスよ、アイツ誰に対してもあんな感じッスから。」

 
「そうそう。ダンテなんか目茶苦茶嫌われてるしね♪」
  

「お前程じゃねぇけどな。…ま、気にする必要ないッスから!」

 

 

肩を落とす私に、にっこりと笑って励ましてくれるダンテと茶目っ気たっぷりに
ウィンクをするアルフさん。二人から元気を貰い小さくうなづく。

     

 

 

「そうですか。…あの、ちょっと話が変わるんですけど、庭の方でもう一方見掛けまして…」

 
「庭って…バラ園の方でですか?」

 
「あ、はい。その人も屋敷の方なのかなぁと…」

 
「あ〜それハイドだね〜♪」

 
「ハイド…さん?」

 
「俺達と同じ屋敷の住人ッスよ。自己中で横柄だからあんまり好かねぇんスけど、
 かなりやり手の実業家かなんからしいッスよ。学校も通ってるらしいけどちゃんと行ってるんだか。」
 

「へぇ…。」

 

 

あまりにも大人っぽかったからか学生には見えなかった。
しかし、ハイドさんとやらにも早く会ってみたいものだ。

 

 

「何〜?カイリちゃん、もしかしてハイドに一目ぼれしちゃった?」

 
「え、そんなんじゃないですよ!」

 
「止めといた方が良いッスよ!マジで底意地悪いんスから!」
 

「だ〜か〜ら!!」

 

 

どうしてこういう話題に持って行こうとするんだろうか。

否定する度に遊ばれているような気がする。

  

  

 

「悪かったな、底意地悪くてよ。」

 

  
「んげっ!ハイド!?」

 

いつの間にか噂のハイドさんがひょっこり出て来た。
先程遠目で見ていたからあまり分からなかったが、スラッと高い長身に高貴さの漂う整った顔立ち、
靡く金髪…引いてしまいそうになるくらいかっこいい青年だ。
   

 

「あ、あの!さっさっきはどうもでした…!」

 
「さっき?会った事あったか?」

 
「え、いや、見掛けたというか…」
 

「それなら"どうも"という言い方は違うだろ。」
 

「え、あ…そうですね!あはは。」
   

 

何この人…!!すんごい感じ悪いんだけど!!
ちょ〜っと顔良いからってそういう言い方は無いんじゃないの!?
あぁ、もう!絶対仲良くなれないタイプ!!
ついさっきまでカッコいい〜とか妙な夢見てたけど前言撤回!!

 

「ハイド。もう少し言い方に気をつけなさい。」
 

「うるせぇな…」

  

私の心の声を代弁するかのようにクリスさんは声のトーンをぐっと落として注意するが、
当事者は全く聞く気が無いも様。

   

 

   

「…ま、全員の紹介も終わった所ですし、これからどうぞよろしくお願い致しますね?カイリさん。」
 

 

 

「…はい!よろしくお願いします!」

  

 

 

何はともあれ。こうして私は、このちょっと変わった屋敷Elusionで働く事になりました。
泣いたり笑ったり、色々あると思うけど出来る限り頑張って行こう、
いつも笑顔で楽しんで行こう、そう決めました!

  

 

 

しかし、この時の私は、これから起こる様々な事件の事なんて予想もしていなかった…