Ninths Nightmare

2

 

…!」

  

昔働いていたカジノが見える小さな公園のベンチに座っていた俺はいつのまにか眠っていたらしい。
もう3年も前の話になるのか…つい昨日の事のように鮮明に思い出せるのに…
こんなにも早く時間が過ぎていたなんて。

   

「こんなとこにいてもしゃあねえな…」

  

俺は立ち上がり、街をぶらついた。
空が紫色になっていた…アイツの瞳と同じ、澄んだ紫色に…

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

「う〜すっかり暗くなっちゃった…」

  

同じ頃、ようやく宵都に着いたカイリは心細そうにネオンが光だす街を歩いていた。

  

「なっなんか…未開の地に踏み込んだ気分だわ…」

  

箱入り娘カイリ、チキンが出てきました。そんなテーマをつけてみる。

しかし、怖い事には変わりない。

この前は久々に街に繰り出した…と言っても平和なアンシャンテの街、しかも昼間。
だからこんな宵都、プラス夜なんてカイリからしたら未開すぎる場所だった。

   

『うわぁ…派手なお姉さんがいっぱいだわ…って言っても多分私と同い年とかよね…。
うぅ…こういう所って物騒って言うし、もし声なんてかけたれたりしたら変な所に連れて行かれるんじゃ…!?』

  

これがマイナススパイラルと言うものか…カイリは道の隅っこで頭を抱えて悶々とした。

 

 

「おー↑↑お姉さん可愛いね〜どう?うちで働かない?」

 

ぽん★

 

「ひぃぃぃぃいやああああああああぁー!!!」

  

  

ダダダダダーーッ!!!!!

 

  

急にチャラいイケメンに肩を叩かれたカイリは声にならない声をあげてどこかへと走りさってしまった。

  

「…俺、何もしてないんだけど…」

 

 

 

 

 

  

 

  

 

「ゼェ…ゼェ…ゼェ…」

  

走って走って走りまくった。久々に全力疾走したカイリは倒れ込みそうな勢いで壁にもたれる。

  

「ん?お前…ルシアか!?

「ふぁ…?」

  

疲れ切ったカイリにそう声をかけたのはカイリがもたれている店、
カジノのオーナーらしい50過ぎの中年の男性だった。

  

 

「嘘だろ!?お前は確か2年前に…!!アイツに知らせないと!!」

  

「えっ、あの!私…ルシアさんじゃありません!!」

   

 

男性が慌てて携帯電話を取り出してどこかへかけようとするのを必死で止める。

  

「え?!…あぁ、確かに…ルシアよりちょっと大人っぽいな…」

「私、カイリって言います。あの、バベルさん…知りませんか?」

  

まじまじとカイリの顔を見る男性にたじろぐカイリは言いにくそうに小声で聞いた。

  

「アイツ、帰ってきてるのか?!」

「…多分…」

「…まぁいい、ちょっと上がっていきな。その様子ならあの事を知らないみたいだからな…」

「あの事…?」

  

バベルが帰ってきていると聞いた途端顔色を変えた男性は陰りのある表情のまま私を中へと招入れた。

 

 

 

 

  

 

 

  

 

初めて入るカジノは開店前のせいか思った程派手ではなく、怖いくらい静かだった。

  

「俺はカント、ここのカジノのオーナーだ。2年前までバベルもここで働いていてな…。
可哀相なやつだよ、本当に…」

「…何があったんですか?」

 

想像以上に重い空気だった。
過去の事を何も知らない部外者同然の私が踏み込んだ事を聞いて良いんだろうか…
・・・戸惑った、戸惑ったけれども聞かずにはいられない。

    

「俺から聞く前に自分の身の上を言ってくれないか?こっちも人さんの事を誰か
分からないお嬢ちゃんに話すわけにはいかないからな。」

「あ、私はカイリ・ファンナイトと言います。バベルさんが今暮らしているお屋敷のメイドをしています…」

「…ふむ、悪いやつじゃなさそうだな。良いさ、話してやろう…。」

「ありがとうございます…」

 

 

若干の警戒も解け、カントさんは大きな一人掛けの椅子にどっかり座り、
足を組みゆっくりと重い口を開いた。

  

 

「2年前…バベルの恋人のルシアが、この辺りで事件にあったんだ。
それからバベルは行方を眩ましてな…後から電話をもらったんだが…ルシアは殺されたそうだ。」

  

  

「!!?」

  

 

 
驚いた…なんてものじゃない…まさか、彼女が死んでいたなんて…
それに、殺されていたなんて思いもしなかった。私は言葉を失ってただ茫然とした。

  

「詳しい話は知らないが、電話の向こうのバベルが酷く傷ついていたのは分かったな…」

「…そんな事が…私…何も知らないで…」

 

どんな気持ちで私と話していたんだろう…どんな気持ちで…私の事を見ていたんだろう…
気が付かないうちに、私はバベルさんを傷つけていたかもしれない…

  

 

  

そう思ったら、バベルさんに会うのが…すごく怖くなった…