Ninths ＊Nightmare

1

ア^{ルフさんに慰めてもらって、クリスさんに勇気づけてもらった次の日…
私はバベルさんに会いに行こうとした。}

^{今いる現在地は１階の階段の前…いつもこの時間になったらバベルさんは降りてくる…}

^{時計は昼の１時過ぎ…お昼にならないと起きてこない彼だがちゃんといつも１時に降りてくる。}

^{…だけど今日は遅い…遅すぎる…}

^{トントン…トントン…トントン…}

^来た！

^{待っていた階段を降りる音に私は振り向く。}

^{「ん？…何をしている…」}

^{「あ、ワイズか…」}

^{「…あからさまに残念そうな顔をするな…」}

^{降りてきたのは、気怠そうな朝帰りをして一眠りし終わったワイズだった。
心底がっかりした表情の私を見たワイズは眉間に皺を寄せた。}

^{「ねぇ、バベルさん見なかった？」}

^{「は？用があるなら部屋を訪ねろ…」}

^{「だって、入りにくいじゃない…」}

^{「…アイツはもう出てるぞ。」}

^{「え？！」}

^{「俺が帰ってきた時すれ違った、かなり大きな荷物抱えていたからな…
また屋敷を出るのかもしれん…。」}

^「！！」

^{「…アイツは宵都にいるはずだ…」}

^{「…宵都…ありがとう！行ってくる！！」}

^{「おい！…勘違いするな、お前は何も悪くない…」}

^{「…ありがとう、ワイズ…」}

^{胸騒ぎがして、心に不安が立ち込める…そんな私を安心させるようにワイズは声を掛けてくれた。}

^{だけれど、バベルさんがまた屋敷を出るなんて……半年前も屋敷を出たらしいし…
その時の理由が何かは知らないけれど、今回は絶対に私のせいだ…}

^{バベルさん……}

^{俺は久々に宵都にきていた。
２年前まで俺はこの宵都のカジノで住み込みで働いていた。
稼ぎはまあまあ良くて、ほとんど毎日仕事をして遊びにも行った…。
そんな汚れきったこの街で、アイツにあったんだ…。}

^{ある日の夕方、俺は開店前の準備の為店の裏口でビンに入った酒やジュースをゴソゴソと整理していた。
横手に見える大通りの道を何度も行き来する女が何度も視界の隅っこにちらつき少々うっとうしかった。}

^{『…あの、パルクレート不動産はどこですか？』}

^{玄関を掃除しようと裏口の道から表の大通りに出た瞬間、
さっきからうろついていた艶やかな紫のロングストレートヘアをした女が声を掛けてきた。
心底困っているのか今にも泣きそうに顔を俯けている。}

^{『…それならこの道をまっすぐ行って酒屋を右だ。』}

^{ここで放っておくのもなんだか良心が痛む…
素っ気ないながらも俺にしては随分丁寧に指まで付けて道を教えてやった。}

^{『わっ！そうですか！ありがとうございます！』}

^{泣きそうな女はガバッと顔を上げて満面の笑みで俺を見た。}

^{…泣きそうなんじゃねぇのかよ…。}

^{そう突っ込みたい気持ちもあった…が、コイツのまっすぐで澄んだ紫の瞳がとてもキレイだった。
コイツの瞳から…目が離せなくなった。}

^{『…お前、さっきからずっとこの辺りうろうろしてただろ？』}

^{わざと合った視線を逸らした。
…今までに経験した事がない気持ちになった…なんだ…？この俺が…}

^{『え、あ〜その、私極度の方向音痴で、道を聞いてもそんなに分からなくって…あはは』}

^{『…はぁ…しょうがねぇな…ほら、ついてこい。』}

^{困ったように笑うコイツがとても可愛く思えた。
そんな彼女を放っておけなかった。コイツにはなぜか、何か…特別な何かを感じた。
特別きれいだとか可愛いわけじゃない、外見でみたら多分15才くらいだろうか…
あどけなさの残る雰囲気はどこか愛嬌があった。}

^{『え！うわー助かります！』}

^{『…お前、俺だからいいもののこの街は物騒なんだからホイホイ付いて行くんじゃねぇ。』}

^{大きなため息をついて随分伸びてきた髪をかき上げる。
…あーもうそろそろ髪切りに行くかな…}

^{『人をゴキみたいに表現しないでくださいよ！しょうがないじゃないですか！分かんないんだから！』}

^{『そこで偉そうにすんな。』}

^{『むっ…』}

^{『…あ、ほら、ここだぞ。』}

^{ゴキ扱いされたコイツは口を尖らせてすねる。
そんな様子が子供っぽくてついつい構いたくなった。
だけど、俺がこんなガキに興味があるなんて思われたくなかったからな…}

^{『え？あ、ありがとう！そんじゃあちょっと行って来るんで待ってて下さい！』}

^{『は？なんで俺がそこまで…』}

^{『また道案内して下さいよ！じゃないと変なお兄さんについてっちゃいますよ！』}

^{『いや、俺は別に…』}

^{『行ってきますっ！！』}

^{『……………はぁ。』}

^{あんなガキにこの俺が振り回されるなんて…。}

^{ため息を吐きながらも、俺は満更でもなさそうに赤く染まる空を見上げた。}

^{『うぅ…』}

^{『…なんだよ…』}

^{15分程した頃、ようやくあの女が出てきた。しかしがっくりと肩を落として半ば泣きかけだった。}

^{『家…見つからなかった…』}

^{『…お前家探してたのか。』}

^{やっぱりこいつ…家出少女ってやつか？}

^{『今日から一人暮らしなの。仕事先は決まってるんだけど…』}

^{この年で仕事？俺ですら17才からだったっていうのに…
いや、待てよ…法的にアウトな業種なら…}

^{『…お前まさかのまさかでホステスとか？…ん？』}

^{…やっぱちげぇわ…}

^{『…ありえねぇ。』}

^{『しっつれー！！！！！ちょっと、少しはそうかもー！とか思いなさいよ！！！』}

^{ペッタンコの胸を見て言われた女は悔しそうに食ってかかってきた。}

^{『実際は？』}

^{『見習いパティシエ…』}

^{『へぇ、まともな職種だったな…』}

^{『どんなのを想像してたのよ！！』}

^{この街でパティシエなんて珍しい…
きっともうすぐしたら新しい店でも出来るのだろう。
夜だけしか動かない街より昼も活気ある街でいてほしいという都長の案か…}

^{『…で、どうすんだよ、家探し。』}

^{『…キレイで可愛くて警備シッカリした１万ルシオン物件がないの…』}

^{『んなトコあるか！！』}

^{むちゃくちゃな話だ。そんな条件で物件を探しても見つかるはずがない。}

^{『だって来る途中でお金盗られたんだもん！私アンシャンテ出身なんだよ？
この辺なんか知り合いだっていないし…うぅ…』}

^{『〜〜〜っあぁもう！しょうがねぇな、うち来るか？』}

^{また泣きそうになり頭を垂れる。
俺はわしゃわしゃと自分の髪を掻いてしょうがなさそうに言った。}

^{『えっ良いの？！』}

^{『この街に女一人置いてくわけにいかねぇからな…』}

^{『うわぁありがとう！本当に助かるよー！！』}

^{現金なやつだ、住む場所が決まったと思ったら急に元気になりやがった。}

^{『でもちょっと待て、お前俺が男だって事ちゃんと認識しとけ。』}

^{『はい？』}

^{『勿論お前みたいなガキに変な気は全く起こす気はないが。』}

^{『かっちーん。』}

^{『あと、ちゃんと金たまったら出て行くこと、家事全般はお前がする！いいな！』}

^{『分かってる！あ、私はルシア！ルシア・ブルシェリア18才。』}

^{シッカリと念押しをするとピョンピョン飛び跳ねて喜ぶルシア。
…しかし、気になる点が１つ…}

^{『バベル・クランヘイト…ってタメだったのかよ、お前…』}

^{『えぇ？！そういうアンタのほうこそ大人っぽすぎでしょ！！』}

^{『タメって分かった瞬間アンタ呼ばわりか？あ"ぁー？』}

^{華奢な体のわりに豪快な反応を見せるコイツ。
おもしろいのだが、アンタ呼ばわりされてちょっとムカついたから顔を引っ張ってやる。}

^{『んご、ごめんなふぁい…』}

^{『ふっ…まあいい…ほら行くぞ、ルシア！』}

^{『あぁっ！待ってよ！バベル〜！』}

^{これが、俺達の始まりだった…。
だけど、あの時出会えた事は、アイツにとって幸せだったのだろうか…}