Eighth *Blue Rose
3
「かわいいお店ですね。」
「でしょう?カイリさんならきっと好きだと思いました。」
酒屋から少し歩いた所に花屋はあった。
先程の酒屋とは全く違い小ぢんまりしていて木で出来た外観がとてもかわいらしい。
「あ、それで、どんなお花を買いたいんですか?」
「そうですね…小ぶりで青や白っぽい花を咲かせるものが一番理想的ですね…」
小さな店であるにも関わらず、高価な花や珍しい花がずらりと並んでいた。
その中からクリスは一本一本チェックしながら選んでいく。
同じようにクリスの要望に沿う花を探し始めるカイリ。
「わぁ…食虫植物まである…」
その場にしゃがみ込み興味深そうにケースに入った不気味な食虫植物を見るカイリ、
その瞳は心なしかいつもよりキラキラしている気がする。
「これどこまで大きくなるのかなぁ…お屋敷で育てられないかなぁ…そんなに世話いらなさそうだし…」
きっと屋敷の住人達から大ブーイングだろう。それを押し切って育てるか否か…
真剣に考え込むカイリだったが数分後、残念そうに立ち上がった。
「うぅ…やっぱりお屋敷はダメよね…。…お屋敷かぁ…バベルさんまだ怒ってるかなぁ…」
しゅん…と寂しそうな顔をしてその場で悄気る。
何かの拍子にバベルの事を思い出しては一喜なしの一憂の繰り返しだ。
「ふふっ花は落ち着きますね。」
後ろから白ユリの花を一本取り、香りをかぐ姿もまた絵になるクリスがやってきた。
「そうですね。私、実はすぐ枯らしちゃうんですけど…やっぱり見るのは大好きです。」
「…バベルの事、とても心配しているようですね。」
普段と変わらないがどこか優しい口調でクリスはカイリを見た。
「え…。心配っていうか…なんか、この前私お節介しちゃって…怒らせてしまって…」
「んー…」
「バベルさんと、仲良くなりたかったんですけど…嫌われちゃったみたいです。」
自分なりに頑張った結果が裏目に出て、カイリは自虐的な笑いをする。
「…確かにバベルはカイリさんが思うようにやんちゃでひねくれたバカな子ですよ。」
「え。あのそこまでは…」
話し出したクリスの口からはカイリが思う以上に毒ついた言葉がぽんぽん出てくる。
「ですが、誰よりも人を愛する事を知っています。誰よりも気が弱くて優しい奴でもあるんです。」
「…」
下唇を噛み、ちらりとクリスを見る。
「だから、カイリさんを嫌うなんて事有り得ません。私が保障します。」
「…ありがとうございます。」
クリスが優しくほほ笑みかけ、カイリもまだぎこちないながらもニッコリと笑った。
「はい、カイリさん。」
「え?」
「青い薔薇、ブルーローズです。実はさっきこっそり買ったんです。」
「わぁ…すごく、キレイです!」
クリスは片手に提げていた紙袋から一本の花を取り出した。 カイリに渡したのは美しい青の花びらが印象的なブルーローズだった。
「栽培不可能と言われていたけれど、不可能を可能にしたブルーローズ… 私は貴方に同じ力を感じます。だから…いつもみたいに笑っていて下さい。」
「…」
「それが、私が貴方を選んだ理由なのですから。」
クリスはカイリから薔薇を取り、彼女の長い髪にそっとさした。 顔を両手で包み込むように近付けカイリの頬を少し上にあげて笑顔を作る。
「…ふふっ…」
「ん?どうされました?」
「いえ、なんだかすっごい恥ずかしいです。クリスさんにそんな事言われて…しかも…距離…近くて…」
恥ずかしそうに笑うカイリとカイリの顔を両手で包むクリスの顔の距離は僅か数センチ。 カイリは目をキョロキョロさせながら小声で話す。
「あ、すみません!女性に失礼でしたね。」
「いえっそんな!」
珍しく慌てたクリスは急いでカイリから離れた。いつもより顔が赤らんでいるのは気のせいだろうか…
「ふふっ…それじゃあ行きましょうか。」
「…はい!」
カイリは大きく頷き、歩き出すクリスの後を追いかけた。