Eighth Blue Rose

2

 

「さぁ着きましたよ、カイリさん。」

  

30分程車を(猛スピードで)走らせると賑やかな街に到着した。
屋敷の周りとは雰 囲気が全然違っていて目の前には様々な店が並びワクワクする…

  

「ゼェ…ゼェ…」

「あ、大丈夫ですか?カイリさん。」

  

はずなのだが、今のカイリに街の雰囲気を楽しむ余裕なんてなかった。
青ざめた 顔を俯むかせ、両手で口元を覆っている。完璧な…車酔いだ。

  

「だ、大丈夫…です…うっ…気持ち悪いですが…」

「すみません、どうも車の運転は慣れないもので。」

「慣れないならあんなスピード出さないで下さい!!」

「まぁまぁ。」

「うぅ……」

  

全く悪びれた様子でないクリスは、楽しそうに愛車をなでている。
よく事故を起 さなかったわ…とカイリは口に出さずとも心の中で落胆した。

   

「…それで、目的地というのは…」

   

シートにもたれて深呼吸をしたら少しずつ酔いが冷めてきた。
ややぐったりとしたカイリは本来の目的を思い出し、今日の予定をチェックしているクリスに尋ねた。

   

「あぁ、この先の酒屋ですよ。」

「酒屋?」

「久々にワインが飲みたいですねー。」

「あのクリスさん、お花はどうするんですか?」

「それでは行きましょう♪」

「えぇぇ〜〜〜!?」

  

花屋の前に行く予定だったのか気分に任せているのか分からないラインだ。
ニコニコしながらクリスは戸惑うカイリをスルーしてさっさと歩き出した。

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

「うーん、60年ものもいいですね…」

「あの…」

「あ、こちらのウェラ・シャンゼリエというのはオリジナルですか?」

「…はぁぁ。」

   

紅茶も好きだがワインも大好きなクリスは酒屋に入ると一目散にワインコーナーに行き、
定員とあれやこれやと話している。
ほったらかされたカイリは別のコーナーをふらつき退屈を凌いでいた。
地下1階から2階まである広い広い酒屋。
帝都ヴォルテールでもこれだけ広い酒屋はなかった。

  

  

「…ふぅ…」

   

  

物珍しそうにワインを見て回るカイリだが、立ち止まりため息をついた。
一人になった途端、またバベルのことを思い出してしまう。
どうしたら仲良くなれるのか…いや、仲良くなれなくてもいい、もう少し距離を縮めたい。
なんであれほどバベルに嫌われているのか、カイリ自身全く分からなかった。

  

「お酒好きなんですか?」

  

「え?あ…はい、結構好き…で…す…」

   

落ち込んだ面持ちでフルーツ酒のコーナーで突っ立っていると、一人の青年に声を掛けられた。
長めのもみあげを垂らした爽やかなブルーの髪が印象的な青年だ。
屋敷のメンバーとはまた違う雰囲気を持っていて洗練された美しさが醸し出ている。
カイリは少しの間見ほれていた。
青年はゆっくりとした足取りでカイリに近付いて来る。

     

   

「僕も好きで、よくこのお店に来るんです。」

「そうなんですか。」

「えぇ、まぁ"よく"と言ってもメルランからなので中々来られませんけれどね。 」

「メルラン?あの魔法大国から来てるんですか?」

「はい、魔法が発達しすぎてしまっているせいか、メルランにはこういうお店はほとんどなくて。」

「へぇ…。」

   

  

暫く屋敷や屋敷の近辺でしか行動していなかったカイリは、そんな青年の話をきいて久々にグローバルな気分になった。
青年はフルーツ酒を何本か手に取り嬉しそうな表情をして選んでいる。

  

   

   

  

「何か…あったんですか?」

  

  

「…え?」

   

青年は手に取ったワインのラベルを読みながらカイリに話しかけた。
いきなりそんな事を聞かれたカイリは驚きを隠せない。

   

   

「なんだか、寂しそうな顔をしていますから。」

   

  

ちらりとカイリに視線を向ける青年。
優しい青い瞳がまっすぐカイリを見つめている。
カイリは眉をひそめ目を閉じ、ゆっくり口を開いた。

   

  

「……あ、その…知り合いと…ちょっと色々あって…」

「知り合い?ご友人ではないんですか?」

「友達ではなくて…一緒に暮らしている男性なんですけれど。」

「…好きなんですか?」

「そっそんなまさか!!ただ…気になるだけです。全然変な意味じゃなくて…」

   

「…そうですか。」

   

  

バベルについてなんと話せば良いのか、カイリは迷いながら言葉を紡ぐ。
青年は 変わらず穏やかな口調で話す。

    

  

「なんだか嫌われているみたいで…」

   

「…うーん…嫌いっていうのとは違うと思いますよ。」

   

「…どうなんでしょうね…」

  

「きっと…嬉しかったんですよ。貴方に…何か気付かされたんだと思いますよ。 」

「…分からないです。」

   

   

   

  

「…いつか分かります。」

    

  

  

  

中々立ち直れないカイリに優しく笑いかけると青年は候補として持っていたワインを一本に絞り、
もう一度カイリの方に向き直した。

   

  

『カイリさーん、お待たせしましたー!』

   

  

ようやく買い物を済ませたクリスが遠くでカイリを呼ぶ。

  

   

「あっ、はい!今行きます!」

「すみません、足止めしてしまって。」

「いっいえ!」

「また会えると良いですね。」

「そうですね…あ、それでは。」

「お元気で。」

  

  

青年と軽く手を振り交わし、カイリはクリスの元に急いだ。