Seventh Re;Merody

1

 
時計を見たら夜中の3時を回っていた。
いつもならこんな時間まで起きていないし、眠りも深いから絶対に起きはしない。
しかし今日は体が冷えたせいかあっさりと眠りから覚めてしまった。
カイリはゆっくり起きあがり開くか開かないかの目をこすりながらスリッパを履く。
眠たそうにあくびをしてクローゼットの方によたよた歩き出した。

 

「んぅ…」

 

もぞもぞとクローゼットから上着を取り出し、いつもの半分ぐらいのスピードで羽織った。

 

「ひくしゅっ」

 

小さなクシャミをするが眠気は飛ばない。
おまけに立っているにも関わらず体は大きく前後に揺れ、その場に倒れて寝出しそうな勢いだ。

 

「…あれ?窓…開けっ放し…寒いよそりゃ…」

  

ハッと気付いたカイリはベッドに戻る途中バルコニーに繋がる自室で一番大きな窓が開けっ放しだったことに気付く。
カイリは窓に近付き閉めようと手を伸ばした。

 

 

 

 

「〜♪〜〜♪」

 

 

 

 

すると、どこからか優しい歌声がカイリの耳に流れてきた。
心地の良い、とても優しい歌だ。
カイリの眠気は一気に吹き飛び、窓からバルコニーへと早足で進む。

 

「〜♪〜〜♪」

 

バルコニーに出ると隣りのバルコニーでアルフが歌っていた。
カイリの部屋はハイドとアルフの間の部屋の為、バルコニー同士も近く、その歌声がよく聞こえる。
気付かれないようにカイリはそっと影からアルフを見つめる。
そこから見える彼の横顔は月明りに照らされ、いつも以上に美しく見えた。
どうしてか、いつもより心臓が早く波打つ…

 

「〜♪〜♪」

 

その歌声は柔らかく聴いているだけで心が洗われるようだった。
カイリは優しい笑みを浮かべて耳を澄ませる。
聞きながら心地よくなってきた頃、カイリはその歌をどこかで聞いた事があるような気がしてきた。

 

「なんだったっけ…?」

  

しかし、カイリにはそれはどこで誰が歌っていたのか全く思い出せなかった。
暫くそんな事を考えこんでいたカイリだったが、アルフの歌を聴いているうちに、そんな疑問はどうでも良くなった。
カイリはいつものように明るく飄々とした雰囲気とは違うアルフに見とれていた。
憂いを帯びたその横顔は美しくもどこか切なくて、見れば見るほど目が離せない。

 

  

  

「〜♪…うわ!!カイリちゃん?!」

  

  

 

隣りのバルコニーから自分を見つめるカイリに気付いたアルフは歌を途中でやめてバタバタと音を立てて振り向いた。

 

 

「わっ、すっすみません!盗み聞きするつもりなんてなくって!」

 

「あっ…いや、こっちこそごめん、うるさかったね、こんな時間に。」

「いえっ!そんなことないです!!すごく…キレイでした。」

 

 

「…ありがとう。」

 

 

 

照れくさそうにカイリは俯いて黙り込む。
アルフはアルフで手摺に肘をついてカイリを気にしながら前を見ていた。
……お互い気まずい雰囲気になると少し肌寒い夜風が二人の間を吹き抜ける。

 

 

「…えっと…さっきの歌なんですけど…」

「あぁ、俺の好きな歌。昔からよく歌ってるんだ。」

 

 

しんみりとした空気を割ってカイリはふとした疑問を尋ねた。

 

 

「そうなんですか、なんか聴いた事があるような気がして…」

 

 

「!」

 

 

カイリの一言に大きく反応するアルフは、目を丸くしてカイリを見た。

 

 

  

「あ、でも似ているだけかもしれませんけど…!」

「…あぁ…そっか。」

 

 

そんなアルフに驚くカイリは咄嗟に手をパタパタ振って否定すると、アルフは少し寂しそうに呟く。

 

 

「…」

 

 

表情を曇らせたアルフにカイリはただ首を傾げるばかり。
彼がどうしてそんなに残念そうな顔をしたのか、カイリには全く分からなかった。

 

 

 

「えっと…いつも、バルコニーで歌ってるんですか?」

「たまにね。屋敷に来た当初は、中々寝つけなくてここに出たら、
無性に歌いた くなってさ、それから気まぐれで歌うようになったんだ。」

「そうなんですか。確かに…すごく静かで歌いたくなりますね。」

「分かる?…あと、月がとてもきれいだから…」

「本当…森の上に月なんて…神秘的ですね。今日の三日月なんかすごくキレイです…」

 

 

 

顔を上げなくても目の前に見える森の上に光る三日月。
今日は雲ひとつないキレイな夜だった。

 

 

 

「うん、嫌な事があったりするといつもこうやって眺めてるんだ。」

「良いですね…」

 

 

 

ゆっくり時間が流れる夜更け…心地よい時間の中、カイリは手摺にもたれ掛かり静かに目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

「あ、そっちに行ってもいいかな?」

「はい、良いですよ、ドアのカギは閉めてないので…」

 

 

アルフの言葉を聞き、カイリがドアの方へと顔を向けた瞬間だった。

 

 

ヒュンッ…

 

 

「?…ってアルフさん!!?」

「え?あぁ、これくらいなら飛んだ方が早いかなーって。」

 

 

カイリとアルフの部屋の距離は約2メートル、地面から約8メートルの距離を臆せずいとも
簡単に飛びこえたアルフは、唖然とするカイリの前でニコニコほほ笑んだ。

  

  

「もう!びっくりするじゃないですか!危ないですから止めて下さい!」

「あはは、ごめんごめん。早くカイリちゃんの側に行きたくて。」

「なっ!何言ってるんですかっ!」

 

 

顔をリンゴのように赤らめ、アルフの肩をペシリと叩いて前に向き直るカイリ。
恥ずかしいやら嬉しいやら複雑な気持ちらしい、表情がこわ張りながらもどこかにやついていた。

 

 

 

『アルフさんってやっぱりストレートな人なんだなぁ…あと、すごく女性慣れし てるっていうか…』