Sixth KIZUATO

3

 
「…」

 
「あ、上がられましたか。どうぞ、アイスティーとリゾットご用意しておきました。」

「…あぁ。」

   

 

気分が落ち着いた頃、いつも通りの表情を作ってダイニングに行くと、
既に料理を作り終えたメイドが氷の入ったカップに紅茶を注ぎながら待っていた。
椅子に座り、まだ冷えきっていないアイスティーを一気に飲み干す。
その間メイドはダイニングから見えるキッチンで鍋や皿を音を出さないように洗っている。

   

 

「…」

   

  

その音が心地よく感じた。アイツと暮らしていた時の事を思い出す。

 

  

  

「…バベルさん、お口に合いますか?」

   

 

  

ぼーっと昔を思い出していた俺の耳にメイドの声が飛び込んできた。
我に返った俺はリゾットを一口食べる。

 

  

「……美味い…」

 

「あ、良かったぁ…。バベルさん、初めて美味しいって言ってくれましたね。」

   

「…」

    

  

   

 

俺が無意識に呟くと皿を洗うメイドの表情がパッと明るくなった。
それがなんだからムカついたものだから、また無言で食べてやる。

    

  

   

「あれ?また黙っちゃいましたね。…でも嬉しいです。」

「…」

「あ、そちら行ってもいいですか?」

「…好きにしろ。」

「はい。」

  

   

  

ここで『だめだ』なんて言ってもコイツは来るに決まっている。
俺がリゾットを半分程食べると、空のグラスに気付いたメイドはアイスティーを注ぎ、静かに席に着いた。

  

  

  

 

「…なんだよ。」

  

向いに座ったメイドの視線が無性に気になった。
メイドの視線の先には俺が皿の隅に避けていたグリンピース。

    

   

「いえ、バベルさんはグリンピースが嫌いなんだなって。」

「…誰にだって嫌いな物の1つや2つはあるだろ。」

「でも、食べないと栄養が偏っちゃいますよ?」

「うるせーな。」

   

   

  

 

メイドの言う事なんか聞いてやらない。

  
俺は無視をして、グリンピースを取り除き終えた残り少ないリゾットを掻き込んだ。
どうせコイツはアイツじゃない…優しくしたって無駄だと俺は分かっている。

     

  

 

  

『あ!バベルったらまたグリンピース残してる!』

『別に良いだろ、嫌いなんだから…』

『ダーメ!嫌いな物食べなきゃ栄養が偏って大きくなれないわよ!』

『…これ以上でかくさせんのかよ…』

『私はメンタルの成長を図っているのであって…!』

『プッ…なんだそれ。』

   

  

   

  

 

   

だけど、似ているのは本当で…怖くなるくらい…

  

  

   

アイツにそっくりなんだ。

  

 

  

  

  

「…」

「バベル…さん?」

「…。…なんでもねぇよ。」

   

  

 

また昔の記憶とダブり、一瞬目がくらんだ。
このメイドはどうしてここまでアイツに似ているのか…
違う所と言えば少しコイツの方が大人しいくらいのような気がする。
俺は顔を背けてアイスティーをもう一度飲んだ。

   

 

 

 

 

  

 

「…あの、ひとつ聞いて良いですか?」

  

「あ?」

 

  

 

 

  

   

自分の指を絡ませ、俺の方をチラチラ見ながらメイドが聞きにくそうに尋ねてきた。

   

    

 

 

「ルシアさんって、誰ですか?」

  

 

「!…なんでお前が知ってんだよ…」

  

「え…初めてバベルさんに会った時、私の事をそう呼んだので…」

  

 

「…あぁ…」

 

 

  

    

心底驚いたが、引っ越してきた当日を思い出したら繋がった。
コイツとアイツの話をするのはなんだか変な感じがする。

   

  

 

  

「もしかしたら…私に似ている人なのかなって…」

「似てねぇよ。」

   

「あ…すみません…。」

 

 

 

 

  

俺が鋭く言い張るとメイドは肩を落とし、眉を下げた。

   

  

 

  

「変な詮索はすんな。」

「でも、私はそのルシアさんと間違われてキスされたんですよ?」

 

 

「……」

   

「気になるのは当前だと思いませんか?」

   

 

 

  

どうしても納得がいかないメイドは真直ぐな瞳で俺に食いつく。

 

 

「……」

  

「…キスするくらいだから、きっとそのルシアさんはバベルさんの恋人なんだろうとは思いましたが…」

 

「……」

  

「やっぱりそうですか。ふふっ…ルシアさんに会ってみたいです。」

   

 

   

 

思ったより勘の良いメイドに何も言えず頬杖をついて素知らぬ顔。
しかし、向こうは一行に黙る気配ゼロ…しまいにはアイツに会いたいときた。
思わぬ答えに俺は驚きを隠せない。

  

   

「会いたい…?」

「だって、少なくとも外見は似ているんですよね?会って話したらもっと似ている所があるかもしれませんし。」

「……」

「バベルさん?」

  

  

「…そうかよ…」

   

 

驚いたのは勿論だが、同時に"もう会えない"事を思い知らされる。
俺はぶっきらぼうに返し、そのまま黙り込んだ。