Sixth KIZUATO

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「!??」

 

「誰ですか!!?…ってわ!!?バっバベルさん!?」

  

 

突然キッチンに入ってきたのはあの生意気なメイド。
メイドは細長く巻いたカレ ンダーを装備して恐る恐るも精一杯の威嚇のポーズをとって突入してきた。
だが、下半身はスウェットを履いているが上半身はタオルしか付けていない俺を見て顔を真っ赤にさせた。

   

 

ルっ…!…はぁ…メイドかよ。」

 

「え、あ…その…。」

 

 

 

「……んだよ…」

 

アイツかと思ったが、咄嗟に口を押さえて言葉を止めた。
焦りを悟られないように外方を向き、苛立った口調で返しす。
別に、メイドに苛ついた訳じゃないのだが。
すると、メイドは恥ずかしさからか俺から目を逸し、手に持ったカレンダーを握り締めて突っ立っている。

…なんなんだよ、何か言えよな…

 

 

 

 

「あ!…えぇっと…物音がして、何かと…!」

  

 

 

「………」

  

 

 

張り詰めていた気持ちが切れ、急に焦り出したメイドは丸めたカレンダーを急いで背中に隠した。

 

 

 

 

「で、でも、何も問題ないなら、その…戻ります!!」

 

 

 

 

口をパクパクさせバツが悪そうに無理矢理笑う。
なるべくこちらを見ないように明後日の方向に視線を泳がしている。
それだけ言うと虫のいどこが悪そうな俺の 気分を逆撫でないようにメイドはそそくさと出ていった。

  

 

「…何なんだよ…」

 

 

 

流し台に両手でもたれ掛かった。
 

なんだか疲れた…

 

 

 

バンッ!!

 

 

 

「あのっ!!」

 

「!!?」

 

 

スゴスゴ戻って行ったはずのメイドがまたも騒がしく扉を開けて入ってきた。
これにはさすがの俺もびびる。

 

 

「………」

 

「…え、えっと…」

 

「…なんだよまた。」

 

 

心底うっとうしそうな目をしてやる。

  

 

「お腹空いたなら…何か作りましょうか?」

 

「は?」

 

 

苛つきが90パーセントに達したその時、俯いた顔が俺に向く。
澄んだ紫の瞳に俺が映った。

 

 

     

「今日はちょっと冷え込んでましたもんね、温かいものでも作りますよ!」

「いや、別に腹は減って…」

「私もお腹空いちゃって。あ、ダイニングで待ってて下さい、すぐ出来ますから。んーリゾットがいいかなぁ…」

 

 

 

俺の上半身をスルーして目だけを見て会話する…という作戦か。
メイドは一人で 勝手に話を進めて寝巻のまま腕まくりをし、手を洗い出した。

 

 

 

 

「おい、俺は別に…」

「いいんです、いくらキスされようがお尻を触られようがバベルさんは大切な住人さんですし!あ、バベルさんはリゾット大丈夫ですよね?」

「……」

 

 

 

さすがのメイド…普段どんくさい感じだが料理を作る動作はテキパキとしている。
しかし、何を言ってもこの女には無駄みたいだ。
しかもかなり…切替えが早いらしい。
イライラしていた気持ちがどこかへ飛んで行き、諦めの気持ちになってくる。

  

  

 

「バベルさんチーズが好きでしたよね、ちょっと多めにいれときます。」

「は?」

「違いましたか?夕飯で他の料理はそんなに食べられてなかったんですけど
グラタンとかチーズサラダとかは全部食べてくれたので…バベルさんはチーズが好きなのかなって…」

 

 

  

 

 

『ふふっ、バベルの好きなラザニア、今日もチーズたっぷりにしといたから♪』

 

 

 

 

 

アイツとダブった…
そういえば、アイツも料理が得意だった、暇があれば作り俺によく食べさせていたな…。
たまに失敗もあったが俺にとってアイツの手料理は何よりのご馳走だった。

 

 

 

「…」

 

 

「バベルさん?」

「…!…あぁ…。…シャワー浴びてくる。」

「はい、じゃあそれまでに作っておきますね。」

 

 

 

何を昔話に浸ってるんだ…。

 
しかし、思った以上にあのメイドはアイツにそっくりだ…

見た目といい、声と言い、仕草と言い…雰囲気までも。

 

 

『バベル!』

『ん…?なんだよ。』

『なんか、疲れてる?』

『…あぁ…ちょっとな。』

『はい♪』

『ん?』

『魔法のアメちゃーん!』

『………』

『これ食べたら一気に回復ー!!』

『…バーカ。』

『ふふふっ』

 

 

 

アイツの笑顔を思い出した。

 
俺の機嫌が良かろうと悪かろうといつも笑顔で話しかけてきた。
頭を撫でてやると目を細め嬉しそうにほほ笑む。
冗談を言いながら楽しそうにしている彼女がとても愛しかった…いや、今でもまだ愛しい…

 

 

 

 

 

 

ザアアァ…

  

 

 

 

 

 

「……」

 

気分を変えるために冷水を浴びた。
蒸し暑い梅雨とは言えさすがに冷水は寝起きの身体にはキツかった。
しかも、この行為は俺にとって中々の自殺行為。

  
上がった後にアイツにみられたらまた叱られるな…と思ったが…
アイツはアイツじゃない…顔が似ているからと言って同一人物ではない…。
アイツは…もう帰ってはこない…。

 

 

 

キュッ…

 

 

 

ノズルを閉めシャワールームから出て棚に積まれたタオルの一枚を取り出して
身体を拭き常備してあるスウェットを履く。
そしてフェイスタオルを一枚取り出して顔を拭いた。

 

  

 

 

「…!」

 

 

 

 

今まであまり気にしていなかったが、タオルから漂う香りが妙に気になった。
それはアイツの香りと同じだった。

 

 

 

 

 

 

「…こんな所まで同じかよ…」

 

 

 

 

 

俺はその場にしゃがみ込み、暫く動けなかった。