Sixth KIZUATO

1

 
 
ザザァ…

  

波の音が聞こえる。

とても強く岩に打ち付けるような…波の音。

潮の香りがした、気分が悪くなりそうなくらい強い香り…。

  

『……バベル……』

  

懐かしい彼女の声が聞こえた…。

  

  

 

目を…開ける。

 

目の前にはだだっ広い暗い海に真っ黒な空、先には断崖絶壁の崖…
見覚えのある この場所は、俺にとって二度と立ちたくない最悪の舞台だった…
その舞台に白いワンピースを着た彼女が無表情で立っていた。

 

  

 

 

『………』

 

 

振り向いた彼女が何かを言いかけたその時、ぐらりと視界が歪んだ。
歪んだ世界に彼女は静かに落ちて行く…

  

  

   

  

待ってくれ!!いくな!!いかないでくれ…ッ!!!

   

   

 

 

縋る想いで手を伸ばした。

  
しかしその手は彼女に届くことなく空を切る…
霞んで行く視界で僅かに見えたのは黒い影に覆われながら落ち落ちて行く彼女の姿…

 

 

  

 

 

『いやあぁああ…っ!!』

 

    

 

 

  

 

「っは!!…はぁっ…はぁっ…」

   

   

 

 

また見たらしい…
あの日からこの悪夢を度々見る。

   
目の前でアイツを失ったあの日から…

  

   

 

 

「…はぁっ……はぁ…くっ…」

   

 

 

   

息切れがある程度収まった頃、重たく汗ばんだ体をベッドから起し、窓の方に歩き出す。
心臓がうるさく鳴っている…嫌な感じだ。

  
日が昇りだすかだすまいかな暗い外はさっきの夢とリンクする。
乱暴にカーテンを閉め、タオルを一枚クローゼットの中から出した。

  
何か着よう かとも思ったが嫌な寝汗をかいて気持ちが悪い…
何も身に着けていない上半身の汗を軽くふき、タオルを首にかけて廊下に出た。

 

  

  

 

  

 

 

トントントン…

  

 

    

 

 

 

 

  

まだ人気のない二階の廊下、時間は早朝5時前…
電気が付いてない薄暗い廊下を電気スイッチを手探りで探しながら進んでいく。
スイッチに触れ、肩を撫で下ろしつつ電気を付けた。
ほんの少し気持ちが落ち着く…以前までは明るい場所より暗い場所の方が好きだった…
けれど、あの日から暗い場所が怖くなった…特に一人でいる暗い場所が。

 

  

 

 

   

ガチャ…

 

 

   

   

 

「……」

  

 

キッチンに着き、ボトルに入った水を冷蔵庫からだして飲む。
まだ…少し手が震えていた。

 

 

「ったく…手が震えてやがる…」

 

 

断ち切れていない、この気持ちを…2年経った今でも…。
断ち切れる訳がないんだ…

 

  

 

  

 

 

 

  

ルシア…

  

 

  

 

 

バンッ!!!