Fifth *Dante...
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「っ…!!はぁっ…はぁっ…!!うっ…」
昔の記憶を思い出す、忘れられない家族の最後の姿。 なぜ自分だけ生きてしまったのか、自分がキャンプに行きたいなんて言ってしまったから… 家族があんなことになったのか…。後悔の念が自分を苛む。 ダンテはうずくまり、息を荒げる。
「ダンテ!!」
心配して追いかけてきたカイリがようやくダンテの元に辿り着いた。
ザアァァァァ…
カイリに気付いたダンテは目を見開いた。 あの時と同じような強い雨が降り出し、頭が痛くなってくる…
『兄ちゃん!!兄ちゃああん!!』
「あ…いやだ…いやだぁ!!あああああっ!!!」
駆け寄るカイリと弟の最後の姿が重なり、ダンテは頭を抱えてその場で震え出した。
「ダンテ!?」
「いやだぁ!!ごめんなさいっ!!俺だけ生きて…ごめんなさい…っ!!」
「ダンテ!!ダンテ…落ち着いて…」
「ごめんなさい!!ごめんなさい・・・っ!!」
カイリは必死でダンテを落ち着かせようと声を掛けるが、ダンテは全く聞かず何度も何度も謝る。
「…っ、ダンテ…!」
カイリは悲しげな表情を浮かべダンテを抱き締めた。
「…貴方が生まれてきてくれて良かった…貴方が助かってくれて良かった… 大丈夫…貴方のせいじゃない…貴方の…せいじゃないの…。」
「はぁっ…はぁっ…。…う…うぁっ…うわあぁっ!!!」
カイリに抱き締められ、優しく頭を撫でられる。 やっと落ち着きを取り戻してきたダンテは、カイリの腕の中で大声で泣いた。 それは家族を失って初めて人に見せた涙だった。
「…カイリさん、なんで来たの…?」
暫くカイリの腕の中で泣いた後、ダンテは添えた花の横に立ち静かにカイリに尋ねた。 その口調はいつもの作ったような口調ではなく、無理をしていない自然な印象を与える。
「え?だって心配じゃない。ダンテって、本当に目が放せないし。」
「俺、そんなに子供に見える?」
「子供っていうか…弟みたいな感じかな。」
「弟…」
若干不満そうな顔をしてダンテは、目の前にゆらめく沈みかけの夕日を見た。
「…ここが、ご家族が亡くなった場所なのね…」
「…うん、10年前に車の事故でさ。父さんと母さんと弟を乗せた車は このガードレールを突破って落ちたんだ。俺はその前に車から道に放り出されてさ。 …俺がキャンプに行きたいなんて言ったばかりに…」
「…でもダンテのせいじゃないよ。ダンテが生きていて良かったって、 家族の方は皆思ってるよ、きっと。」
「…ありがとう、カイリさん。」
ダンテはカイリに背を向けて小さく呟いた。 落ち着いた、優しい笑顔で。
「…じゃあ、帰ろっか。夜ご飯ダンテの分もあるんだから!」
「マジで?!やったぁ〜★…あ、帰ったら風呂入ろうよ!一緒に★」
「なんでそうなるの?!」
「だってカイリさんにとって俺は弟なんでしょ?」
「で、でもそれは話が別!実際に弟じゃないでしょ!みたいな存在でしょ!!」
「え〜なんだよそれー!!弟損じゃん!!」
「何、弟損って!!っていうか、弟=姉とお風呂じゃないんだから!それに敬語! クリスさんに使いなさいって言われたでしょ!」
「もう敬語は卒業!カイリさんは俺の姉貴なんだもん♪」
「もーっなんなのよー!」
いつも明るく振舞うダンテだったけれど、それは無理をして自分を「強く」見せようとしていた。 辛い事があって、きっと今もまだ辛くて・・・
それでも彼は一人で立とうとしている。 私は、そんな彼の助けになれたらいい、心からそう思ってる。
夕日をまぶしそうに目を細めて見ているダンテ。
沈む夕日が強がるダンテにさよならを言っているのか、 ダンテが今日までの自分にさよならを言っているのか、 私には分からないけれど。 どうとも言えない気持ちになった。
あと、今回の件でダンテが少し大人になったような気がする。 メンタルの面でね。
・・・姉弟みたいな関係が確立してしまったけれど。 それはそれで、いい関係・・・かな。
私達は、近くのバス停まで夕日を背に歩き出した。
さようなら、強がりな自分。
さようなら、一人ぼっちな自分。
さようなら、今日までの自分。
もう、迷わない。