Fifth *Dante...
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「父さん、母さん…ノエル…遅くなってごめんな…」
Elusionからバスで暫く乗った場所にある山にダンテはきていた もう太陽は沈みかけ辺りは赤く染まっている。 小さな花束を持ったダンテは急カーブのきいた山道で立ち止まっていた。
「今日で10年だな…あの日から…」
キイィィィィィ!!
「…っ…!!」
花束を供えると、10年前の事故の時の事を少し思い出した。 頭が痛くなってくる…。ダンテは頭を押さえてその場にしゃがみ込む。
「…カイリさん…」
息を大きく吐くと少し頭痛が引いてきた。 ダンテは心配して駆け寄ってきたカイリの手を振り切った時の事を思い出した。
「…はあぁぁ…」
どうしようもないような脱力感やもどかしさに苛まれ、大きなため息があふれた。 振り切った自分の手を小さく抓り、段々暗くなって行く赤い空を見上げた。
ポツ…ポツ……
「あ…雨・・・降ってきた…」
暫くそのままの状態で道に座っていると、さっきまでの晴れ間が嘘かのように雨が降り出してきた。
ザアァァァァ…
「…っ!!」
10年前の夏の日の出来事…サンローラン家はダンテの要望により家族で山にキャンプにきていた。 自然を満喫した一家は車で家路についていた。 ダンテの父が車を運転し、助手席には母が静かに外の景色を眺めている。 後部座席に座るダンテと弟のノエルはキャンプ中に捕まえた蝶の入った虫かごを興味深そうに眺めていた。
『兄ちゃん兄ちゃん!このチョウチョなんてやつだったっけ?』
『こら、生き物は捕まえたらすぐ逃がしてやらないと可哀相だろう?』
『命は大切にしないとだめよ、ダンテ、ノエル。』
『わかってるよ!』
サンローラン家は幸せそうなどこにでもいる家族だった。 家族を乗せた車は急な カーブのかかる山道をぐんぐんスピードをあげて下りて行く。
『兄ちゃん見せて見せて!』
『おう!』
『…あらいやだ、なんだか天気が悪くなってきたわね…』
『そうだな、山の天気は変わりやすいって言うからな…』
『早く山を下りましょう。』
段々天候が悪くなってきた、今にも雨が降りそうだった。父親はスピードをさらに上げる。
『キャンプ楽しかったね!』
『あぁ!また行こうな!』
後部座席では兄弟が楽しそうにキャンプを振り返る。 二人でじゃれあったり、蝶を観察したり、キャンプ後だというのにも関わらずとても元気だった。
ザアァァァァ…
天気が悪い事に気付いた直後、急な夕立が降り始めた。
『…雨降ってきたわね…』
『視界が悪いな…こりゃ災難だ。』
『兄ちゃん、チョウチョ逃がしてあげよっか。』
『そうだな…』
パカッ…
『きゃっ!?こらダンテ、ノエル!こんな時に逃がすんじゃありません!』
『だって〜』
蝶を虫かごから放すと母親は驚き後部座席の二人に軽く叱り付ける。
『お…おい…冗談だろ…』
『どうしたのあなた…』
それと同時に父親が青ざめた顔をして呟いた。
『ブレーキが…ブレーキがきかないんだ!!』
『そんな!!?』
キイィィィィィ!!
ブレーキがきかない事に気付いたダンテの両親はパニックに陥った。 父親は前をほとんど見ず乱暴にハンドルを操作する。 母親は手すりに必死でしがみつくが、ダンテとノエルはしがみつく事が出来ず 後部座席のドアやイスに体を打ち付けられていた。
ガアンッ!!
『うわぁああっ!!!』
急カーブにさしかかった時、その勢いで後部座席のドアが開きダンテは外に投げ出された。 しかし、車はカーブを回り切れずガードレールを破り崖の下に引き擦り込まれるように突っ込んでいく。
『兄ちゃん!!兄ちゃああん!!』
『うわあぁっ!!!』
『きゃあああっ!!!』
開いたドアの向こうにダンテが見たのは、 自分に必死で助けを求める弟の姿と叫ぶ父親と母親の姿だった。
『父さん!!母さん!!ノエルーーー!!!』
ドガアアン!!!
激しい雨が降っていたが、辺り一帯は崖に落ちた車の黒煙が立ち込めていた。 ダンテは声も出なくその場にしゃがみ込み気を失った。
立ち込める煙の間で、蝶がひらりと悲しげに舞っていた。