Forth *Visitor of Rainy day
2
「…でけぇ玄関扉…」
同じ頃、先程のグリーンの髪の青年は広い庭を迷いながら進んで行き、
やっとの思いで玄関の扉前にたどり着いた。雨に濡れ身体は冷えきってしまった為、
早く屋内に入りたくて仕方がない。
チャイムを押そうとすると…
バァンッ!!!
「ぶっ」
「急げ急げ…ってあああっ!!?すすすすみませんー!!」
向こう側からきたカイリのあけた扉がぶち当たってしまった。
「いっ…てぇなコラ。」
「ひぃぃ!ごめんなさい!!あ、あの手当てはちゃんとさせて頂きますから!
…あれ?…どちらさまですか?」
顔を手で押さえて低く唸る青年に謝り倒す土下座のカイリ。
カイリは初めて見る青年に不思議そうに訪ねた。
「あ?どちらさまって…」
「っていうかずぶ濡れじゃないですか!早く入って下さい!すぐお風呂沸かしますから!」
青年はまだ顔を押さえたまま。よほどの大ダメージだったようだ。
慌てるカイリは青年の腕を引っ張り屋敷の中へと連れ込もうとする。
「は?っテメ、さわんな!」
バッ!
「あ…ごめんなさい…ってそんなことより早く入って下さい!ホント風邪ひきますよ!?」
青年に手を振り払われオロオロしたのも束の間。
空気が読めないわけではないが、いつものテンションで強引に青年を中にいれようとする。
「…」
「…って!聞いてるんですか?!」
青年の顔を初めて見た。目付きは悪いものの屋敷の住人達に負けないくらいの美声年だった。
青年は顔を上げカイリと目が合うと時間がとまったようにカイリを見つめる。
「…あ、あの…」
「ルシア…」
青年は静かにそう呟いた。
「は?」
訳が分らなくカイリはしかめっ面をして首をかしげる。
すると青年は近付いてきて顔と顔がくっつきそうな程の距離かと思えば…
あれ?この人さっきなんて言った?ルシア…?
うーん…知らない名前だわ…誰の事なんだろう…って…ん?…んんん??!
!!!?
目の前には顔。
肩は掴まれて動けない。
そして
…唇には味わったことのない柔らかい感触…
これって…もしかしなくとも…!!?
「んはっ!…って…ちょっ…とぉおお!!!??」
パアァンッ!!
「だっ!?何すんだ!?」
ビリッ
「あぁーっ!!やぶけたーっ!!いやー!!変態ー!!!」
パアァンッ
「いってぇ!!」
「な、なななんなのよ!!いっイキナリき、きききキスするなんて…!!
しかも服破るなんて…!!どういう神経してんのよ!!」
突然のキスに追加して服も破れたものだから反射的にビンタをしたカイリは
破れた胸元を隠して怒濤の勢いで威嚇する。
「お前が逃げるからだろ。」
ガチャ
「「!?」」
青年は悪びれる様子もなくサラリと言い返す。
そんな青年にまたもいらついたカイリはつかつかと詰め寄ると…突然扉が開いた。
…
「…すまん。」
パタム。
「何か誤解してるよねワイズぅぅぅぅぅ!!!?」
ドアの向こうから現われたワイズは表情ひとつ変えず扉を閉めた。
「あはは、先に会っていたんですね、カイリさん。」
リビングにてクリスを始めとする屋敷のメンバーが集まり、
嵐のようにやってきた訪問者を半円状に囲んでいる。
クリスはクスクス笑いながらカイリと青年を見た。
「えぇ…まぁ…っていうか!!なんなんですかこの無礼者はッ!!」
『無礼者て…笑』
訪問者の青年にビシッと指をさし苛立つカイリ。
そして乱れる言葉に突っ込む一同。
「もうホンットにありえないです!!」
「ってバベル!!カイリさんに何したんだよ!!」
むすーっとソファに膝を立てて掛けていたダンテはつかつかと詰め寄って青年バベルの前で仁王立ちした。
「ただキスしただけじゃねーか。別に部屋連れ込んだわけじゃねーし。まだまだ子供だな、ダンテ君。」
「おっ…おま…お前!!」
わなわな震えるダンテの横から呆れた顔のハイドが出て来る。
めんどくさそうに髪をかきあげ一人掛けのソファに偉そうに座るバベルを見下ろした。
「ったく、戻ってきて早々面倒な事すんじゃねぇよ。」
「あの…あの人の事皆さん知ってるんですか?」
「え?あぁバベルのこと?うん。まぁね。」
さっきからかの様子だとどうも住人達は青年の事をよく知っているようだ。
ハイドの言葉を聞いてカイリはなんとなく察しがついてきた。
「うっせー引きこもり。さっさと自分の部屋にこもっとけ。」
「あ?なんだと…」
パンパン!
不穏な空気が漂い出しそうな瞬間切れ良く手を叩く音が響く。
「はいはい、ダンテもハイドも落ち着いて。
そしてバベル、久々だね。半年ぶりかな?相変わらず君は口が悪いな。」
「ふん、るせーな。せっかく帰ってきてやったっつのに。つかこの女…新しいメイド?」
クリスしょうがなさそうにため息をつく。
バベルはじろりとカイリに視線を向け上から下までジロジロ見る。
「えぇ、カイリ・ファンナイトさんですよ。」
「さっきはイキナリのキスありがとうございました。」
イライラした口調でわざとらしく言ってやる。こうでもしないと気がおさまらない。
「可愛くねぇ女。」
「なっ!!」
「俺はバベル・クランヘイト。まぁ、どーぞよろしく。メイドさん?」
むにっ
「「!!?」」
自信にあふれた笑みを浮かべバベルは立ち上がると、挨拶代わりにカイリの胸をさわる。
さすがにこれは周囲も唖然とした。
そして段々震え出すカイリ。
背後には負のオーラが漂っていた…。
「だっ…だ…誰がよろしくなんてするかあぁぁあ!!!」
ガッシャーン!!
その日は一日中物や硝子の割れる音と二人の走る足音が絶えなかった。
そんな雨の日の出来事。