Third Honey

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段々蒸し暑くなってきて体はすこぶるダルダルさ…。
カタツムリがゴソゴソ動き出してきて、雨こそは降らないもののスッキリしない天気が続いている。
 
 
そんな湿気ムンムンの梅雨の昼下がり。
 

 
「さぁ飲みなさい!犬♪」
 
「アゥンッ!!」
 

  

 
ベシィッ
  

  

  
「ふぎゃっ!!…いたた…;;相変わらず暴力的なわんころめ…」
 

 
私が初めてわんちゃんを洗った日から一週間が経っていた。
 
今日も今日とてクリスさんに見つからないよう、
こっそりキッチンからミルクを取ってきてあげてるのに…。
 

 
「なんで懐いてくれないのー??!」
  

 
「お前動物に好かれないタイプなんじゃねぇの?」
 
「でも実家で飼ってるハムスターは懐いてますもん!…よく噛まれますけど…」
 
「懐いてんのか、それ。」
  

  

 

 
どうもメス犬とは合わないのか、わんちゃんは全然私に寄ってきてくれない。
だけどハイドさんには自分からすり寄っていくし…
男女差別反対!!←まだ言ってる
  

   

  
「あ」
  

 

 
「ん?どうしました?」
 

 
わんちゃんのお腹を撫でていたハイドさんは表情を変えずに短く呟いた。
 

 
「コイツの名前考えてなかったな…」
 
「あぁ!そうでしたね!…何にします?」
 
「…お前考えろ。」
 
「え?!なんで私なんですか!明らかにこういう場合はハイドさんでしょう?!」
 

 

自分から言い出したくせに私に投げるなよ!と突っ込みたくなった。
ハイドさんは眉間に皺を寄せて難しい顔をしている。
ため息と一緒に出た言葉は意外なものだった。
 

 
「…名前付けるとか苦手なんだ…」
 
「…なんか、器用そうに見えてあんまり器用じゃないんですね。」
 
「ほっとけ!」
 
「まぁいいじゃないですか!個性的な感じになりそうですし♪
あ、例えばで何か挙げてみて下さいよ!」
 

 
自分を見せる事に慣れていないのか、ハイドさんは恥ずかしそうに顔を背ける。
変な所で謙虚っていうか何と言うか…。
とりあえず私はハイドさんのネーミングセンスを期待して
キラキラとした眼差しをいっぱいいっぱいむけた。
 

 
「………ジョー…」
 

 
「………ボクシングでもさせるんですか?」
 

 
いつぞやの異国の漫画の主人公を思い出した。
 

 
「………ケンシロウ…」
 
「いやいやいや!!っていうかこの子女の子なんですからもっと可愛い名前考えてあげて下さいよ!」
 

 
ネーミングセンス…
皆無!!!
びっくりだわ…ここまでステキにセンスない方もそうそういないんじゃ…
 

 

 
「じゃあ試しにお前が言ってみろ。」
 
「私ですか?」
 

 

 
急にふられて少しだけ戸惑いの色を見せる。
名前って…ハイドさんがつけた方がわんころ…
じゃなくて、わんちゃんも喜ぶんじゃないかなぁ…?
 

 

 
「うーん…あ!じゃぁ"ポチ公"なんてどうですか?!」
 

 
「は?ポチ公?」
  

 
「どこかの国で犬の事を皆さん全員ポチと呼ぶらしくて、
その中でも優秀な犬はポチ公と呼ばれるんです!」
 

 

 
自信満々に答える私を白い目で見ると、ハイドさんは深い溜め息をこれでもかと吐いた。
 

 

 
「それ、デタラメだろ。」
 
「え、そうなんですか?私はそう聞いてますけど…」
 
「その異国の犬の一般的な名前がポチで、かつて昔ハチ公という主人に忠実な犬がいたんだよ。」
 
「へぇ…そうなんですか。…よく知ってますね。…犬に関しては…」
 
「犬に関してはは余計だ。」
 

 
顔を赤らめ、何か言いたげな表情をするとハイドさんはぷいと顔を背けてしまった。