Second ＊In the good afternoon

^{ミルク事件から数日がたった。

私はなんとなく気になりながらもなんとなくそのままで、やっぱりスッキリしない日々が続いていた。}

^{ミルクねぇ…身長でも気にしてるのかな？

いやいや、確かにお屋敷の住人さん達の中じゃ小さいかもしれないけど…

世間一般なら普通だと思うし…

それに、ただ自分が飲みたいだけならコソコソする必要ないわけだし…}

^{「うーん、ぅうーん…」}

^{そんな事を考えて唸る昼下がり。

昼食後は大抵自由に休める自由時間。

私はお気に入りのお庭の中央、噴水の周りで休憩中。

この噴水からは庭をぐるりと一望できる。

本当に広いんだなぁ…}

^{「…あれ？ハイドさんだ。」}

^{バラ園の方をぼーっと見てみるとティーカップを片手に読書をしているハイドさんを見つけた。

そうだ、あの人はいつもこの時間はバラ園で過ごしてるのよね。

暫く見ていると視線に気付いたのかハイドさんがチラリとこちらを見た。}

^{「…行ってみよっと！」}

^{すぐ目線を逸らされたけど…}

^{負けない。}

^{負けないんだから！！}

^{強気な足取りでバラ園へと足を進めた。}

^{「ハイドさん！何読まれてるんですか？」

「…メルランの魔術書だが…」

「魔術書？…いや、それどう見ても二冊重ねてません？…えいっ！」

「あっ、オイ！！」}

^{明らかに読んでいる本は二冊重なっていた。

外側は外国の魔術書だったけど中は色んな何かの写真が載っている本だ。

気になって中側の本を抜き取ってみる。}

^{「…ん？"正しいわんちゃんの飼い方"…？…あれ？」

「っ、返せ！！」}

^{それはとっても意外なもので。}

^{こんな仏頂面のハイドさんが"正しいわんちゃんの飼い方"なんて本を読んでいるなんて…}

^{「…ふふっ…」

「笑うな！！…いいから返せ！」

「すっすみません…なんか…すごく意外で…でも隠す必要ないじゃないですか。」

「笑っただろ…」

「まぁまぁまぁまぁ…」}

^{顔を赤らめながら飼育本を回収する。

怒りながらも大切そうに本を持つハイドさんはなんだかとても可愛らしかった。}

^{「犬…好きなんですか？」

「…あぁ。」

「そういえばElusionでは何も飼わないんですか？」

「…クリスは犬鍋が好きでな…」

「犬鍋？？！…犬鍋って…あの…写真集じゃなくて？」

「本物だ。」}

^{あんな可愛らしいわんちゃん達を食べるなんて…

優しくて紳士的なクリスさんのイメージがガラガラと崩れて行った。}

^{「くぅ～ん…」}

^{むむむ…と悩んでいると可愛らしい声が後ろから聞こえてきた。

「あっ、こら…！」

くすんだ金色のけむくじゃらがハイドさんの足元でちょろちょろ動いている。}

^{これは…え、犬…？？}

^{かっ…かわい…っ！！無駄にモコモコしててかわいぃっ…！！}

^{「かわいっ…！！っ、ハイドさん！この子は！？」

「…三週間程前からこの庭に住み着いてるみたいなんだ。

ちょっとかまったら懐かれちまってな。」}

^{ハイドさんは犬を抱き抱えて優しくなでている。

その顔は見たこともないような、とても優しく穏やな顔だった。}

^{「へぇ…ホントかわいいですね！この子…ゴールデンレトリーバーですか？」

「他に何に見えるんだよ。」}

^{「くぅんくぅん」}

^{毛が少し汚れていてせっかくの毛並みのきれいさが失われている気がする。

よし、キレイサッパリさせてもっと可愛らしくさせてあげよう♪}

^{「ハイドさんハイドさん、その子洗ってあげましょうよ♪そこからお水出せますし！」

「あぁ…そうだな。」}

^{ハイドさんは嬉しそうにわんちゃんを抱えて立ち上がった。}

^{クリスさんに見つからないよう細心の注意を払いながらそーっと洗面器やタオルを用意する。}

^{再び庭に戻るとハイドさんはわんちゃんとじゃれあっていた。

小さいながらも声を出して楽しそうにはしゃぐハイドさん。}

^{少し…胸の鼓動が早くなった。}

^{「！…ん、これ使えよ。」

　

「え？ペット用シャンプー…ってなんで持ってるんですか！？」}

^{じっと見ていた私に気付くとポケットからペット用シャンプーを取り出した。

　

ホント…カッコいいけど不思議な人…}

^{「よーしわんちゃん！今からお姉さんがキレイにしてあげますよー♪」}

^{ゲシッ！！}

^{「んぎゃっ！！」

　

「おっ、おい！」}

^{わんちゃんに顔を近付けたら思いっきり犬キックを顔面に食らった。}

^{「大丈夫か？」

　

「は、はい…びっくりしました…」

　

「ったく、大人しくしてねぇとダメだろが。」

　

「くぅん～」}

^{ハイドさんはツンツンとわんちゃんの額をつついて言うが、あまりしつける気はないみたい…

いつまでもよごれていては可哀相なのでハイドさんはわんちゃんを抱き抱え、

私は用具を持って隅の水道まで移動した。}

^{「アンッ！アンッ！」}

^{「こっこらこら静かにッ！クリスさんお屋敷いるんだから；；」}

^{ハイドさんから私に代わり体を洗い出すとイキナリ暴れ出した。

ちょっと～！！さっきくんくん鳴きながら静かにしてたじゃないのよ～！！

なによ～！それってハイドさんだから？}

^{ってことは…メスか！！}

^{「大人しくしてろ。あとで遊んでやるからよ。」

　

「アゥン♪」}

^{現金な犬！！なによなによ～！！

私には犬キック食らわせといてハイドさんにはこの態度って…！！

男女差別もいい所！！今世紀からは女性だって進出してっちゃうんだから！！}

^{「…負けないし！！」}^{「何にだ。」}

^{ハイドさんから突っ込みを入れられつつ、犬キックを食らいつつキレイに洗って

あげる。暫くするとわんちゃんも慣れてきたのか気持ち良さそうに目を瞑っていた。}

^{わっしゃわっしゃ…}

^{「よしっ！これで完成っ！！」}

^{隅から隅までシッカリ洗い流し汚れのよの字もなくなった。タオルで拭き水気を

取り、体をブルブル震わせると、金色のふわふわの毛が揺れる。}

^{「アォン♪」}

^{「随分キレイになったな。さっきと全然毛並みが違う。」

　

「ふふふ～シッカリばっちり洗いましたからね！」}

^{洗いたてのふわふわなわんちゃんを抱いて持ち上げるハイドさん。

わんちゃんも嬉しそうにパタパタと手足をばたつかせている。

すると、ハイドさんはわんちゃんを抱き抱えて言いにくそうに小さく呟いた。}

^{「…サンキューな。」}

^{「へ？」

その声はいつもと少し違っていて、その顔はどことなく恥ずかしそうな表情だった。

私はまさかそんな言葉を聞けるなんて思ってもみなかったから一瞬何を言われたのか分らなかった。}

^{「…コイツ、洗ってくれてよ。」

　

「…いえ！お安いご用です！」}

^{カッコいいからって調子に乗ってる偉そうで口が悪いヤツって思ってた。}

^{それは今も変わらなくて。}

^{だけどハイドさんの笑顔は私を嬉しくさせる効果があるみたい。}

^{ちょっぴり…胸がときめいた。}

^{「じゃあ世話よろしくな。」

　

「なんでそうなるんですか！？」}

^{そんな、昼下がりの出来事でした。}