First Secret Library

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長い列車の旅は思った以上に身体の負担になっていたらしい。

 

「うぅ…肩凝ってるぅぅ…」
 

 
いつもなら清々しい朝も昨日の筋肉痛でそんな清々しさを吹っ飛ばしてしまっていた。
 

 
窓から差し込む朝日に視線を向ける。
うん。なんだかんだ言ってやっぱり気持ちの良い朝だ。
 

 
「さてと。朝ご飯作ろ。」
 

 
お屋敷に入って記念すべき一日目。手早く着替えて顔を洗い薄く化粧をする。
肩を鳴らしながらゆっくりと階段を降りて行くと、なんだかほろ苦いいい香りが漂ってきた。
 

 

 
「あれ…?」
 

 

 
ダイニングのドアを静かにあけて中をそっと覗いてみる。

 
 
「おはようございます、カイリさん。」
 
わっ?!…おっおはようございますクリスさん!」

 

ドアのすぐ前にいたらしいクリスさんは爽やかな笑顔で話しかけてくれた。
急に飛び出してきたものだからびっくりして心臓がとまるかと思った…
 

 
「あ、コーヒー入れられてたんですね。」
 

 
テーブルに置いてあるカップにはまだ湯気が立ち上ぼる淹れたてのコーヒー。
さっきの香りはこれだったんだ。
 

 
「えぇ、あとパンも焼いておきました。」
 
「え!?そ、そんなの私がやりますから…!」
 
「いえいえ、元々料理好きですからお気になさらず。それにお疲れになったでし
ょう?昨日もあの後、部屋決めでダンテやアルフが厄介な事になっていましたし。」
 
「あー…」
 

 
もわんもわんという擬音語と一緒に昨夜の事を思い出す。中々酷い有様だった。
たかがメイド一人の部屋決めでなぜあそこまで熱くなっていたんだろうか…
そんなに女の子に飢えているのか?
あれだけ美形なら言わずとも寄ってくるだろうに…
 

 

 

 
『ダメダメ!カイリさんは俺の隣り!』
 
『いーや!俺の向かいにするべきだ!』
 
『それではお皿洗いの対決でもして勝敗を決めましょうか。』
 
『おぉ!ナイスなアイディアだクリス!よーし!アルフ!勝負だッ!
先に皿50枚洗えた方が勝ちだからな!!』
 
『よっしゃ乗ったー!!』
 

 
 

 
…バカだからか…!!
 

 
こうして考えるとクリスさんの口車に乗せられて二人共色々やりましたという感じだったなぁ…

 

「あれでたまっていたお皿を洗う手間が省けましたね。」
 
「そうですね、あーやっていつもたまった家事を片付けてきたんですね。」
 

 
ため息をつき昨日の光景を終了させる。
大体どうして洗っていないお皿が100枚もあるんだろう…
 

 
「あ、朝ご飯の支度しなくちゃ…!」
 

 
本来の仕事を思い出しちゃきちゃきと朝ご飯の支度を済ます。我ながら料理だけは一流だと思う。
 

 

 

 
朝六時に起きて朝食の支度、それから洗濯に掃除に庭の手入れ…
やり甲斐ありすぎなくらい充実した生活になりそう。
クリスさん曰く業者の方が来るらしいからお庭は掃除程度で良いって言ってたけど…
確かに、こんな広すぎる庭一人じゃ到底無理。

絶対無理!!
 

 
そうこうしているうちに、朝食の支度は完了。

ふわふわオムレツに冷たいほうれんそうのスープに海草サラダ、
生ハムのチーズはさみ、そしてクリスさんの焼いてくれたパン。
自分で言うのもなんだけどどれもこれも美味しそう。
クリスさんの焼いてくれたパンは特に美味しそうだけど。

 

 

 

「おっ、おいしそー♪」
 
「あ、おはようございますアルフさん!」
 

 
昨日と同じようにシャツをラフにもカチッと決め、軽いノリと軽いテンションで
一番乗りをしたのは、元気でちょっと(?)頭の軽そうなアルフさんだった。
 

 
「おはよう♪これ、全部カイリちゃんが作ったの?うわぁヨダレでる…」
 

 
テーブルにズラリと並べられた美味しそうな料理達、
食べて食べてと誘惑しているように見えるらしく料理をじっと見つめている。
 

 
「はい!味には中々自信ありますよ!」
 
「ほーぅ、じゃあ俺が味見でも…」
 

 
ペチッ
 

 
「だめです!皆さんがそろってからですよ?」

ありがちなパターンを予測していた私のシッペは見事的中。
これは暫くご飯の番でもしなきゃだわ…
 

 
「じゃあカイリちゃんを味…」
 

  

 
ペコーン!!
 

 

 
「朝っぱらから何やってんだー!!」
 
「いたっ!!」
 

 
またもありがちな展開の魔の手が忍び寄ろうとした瞬間、
後ろからアルフさんをスリッパで殴る目覚めた勇者が現われた。
…助かった…このまま食われるかと思ったわ…
 

  
「やぁおはようダンテ。見苦しいよアルフ。」
 

 
奥から爽やかに挨拶をするクリスさん。
しかし!その手には鈍く光るナイフ…この人、本当に物騒だわ…
 

 
「冗談!冗談だってば♪まーったくクリスはホント怖いなぁ〜」
 
「いえ、これはただのシツケですから^^」
 
「怖ッ!!」
 

 

  
にっこり笑うクリスさんが怖い事はよく分った。
逆らったら絶対ミンチにされそうだということもよく分った。

 

…怖い…;;
 

  
「うるさい、食事中くらい静かにしろ。」
 
「のあーっ!!いつのまに来てたんだよハイド!!」
 

 
突如後ろからの声…とダンテの雄叫びで全員の肩がびくつき振り返る、
するとそこには偉そうに足を組んで座るハイドがいた。

 
 
「お前らが騒いでた時だ。ったく、朝食にするんじゃねぇのか?」
 
「ん?でもワイズがいないね〜ちょっと呼んでこようか。」
 
「あ、でしたら私行きますよ!」
 
「あ、カイリちゃん、気をつけてね♪」
 
「え?あ、はい!行ってきます!」
 

  
アルフさんが何を心配していたのか全く分らなかったが勢いで返事をしてしまった。
 

 
とか言ってしまいましたが…ワイズってあの冷血漢だよね?!冷血漢じゃん!!
あーもぅまたなんか軽くあしらわれそー…

 

むむむ・・・