Twelve I remember you

2

 

「…あ。」
「ん?あ!ワイズ!…ん??」
 

  
すると今帰宅したらしいワイズに出くわした。
ワイズは心底疲れた顔をしていたのだが、問題はそこじゃない。
 

 

 
「なんか…随分派手な格好してるね…、びっくりした。」
「………。」
 

 

 
そう、今日のワイズの格好はシルバーブルーのスーツに白いシャツと
ネクタイと革靴…いつもシンプルで暗い色を好んで着るワイズにしては随分派手だ。
まるで…
 

 

 
「ホストみたい…。まぁワイズがホストなんて考えらんないけど。」
「どういう意味だ。」
 

 

 
愛想がないとやっていけないホスト、ワイズには一番似合わない職業…
ホスト!!
まさにそんな感じだった。
ワイズはいつものように眉間にシワを寄せてつかつかとリビングへと進む。
 
 

 

 
「あれ?ワイズのお仕事ってあれでしょ?レストランのはずじゃ…」
「…うちは変わったレストランでな…店員やコックがこうしておかしな格好をしなければいけないんだ。」
 

 

 
心から嫌がっている様子が伺える…。
けれど、なぜその店を辞めないのがよく分からなかった。
  

 
キィ…
 

  
「あれ、何か話し声がすると思ったら…カイリさん起きていらしたんですね。」
「クリスさん!あ、すみません…うるさかったですか?」
  

  
にこにこ笑顔を浮かべながら入ってきたのはクリスさん。
いつもよりどこか眠たそうだ。
  

 

 
「いえ、書斎で本に耽っていただけですから気にしないで下さい。
時間的にそろそろワイズが帰ってくる頃だと思いまして。…おかえり、ワイズ。」
「あぁ…ただいま。」
 

 

 

 
ワイズが『ただいま』なんて言うとは思わなかった。
勝手なイメージだけど、住人さん同士は希薄な感じがしていた。
けれど、この二人はなんだか違う気がする…。
 
 
 

 

 

 
せっかく3人で静かに過ごせるのだから…とクリスさんは私達に美味しい紅茶を煎れてくれた。
 

  
「美味しい…。」
「ふふ、よかった。」
「…そういえば、いつも気になっているんですが、住人さん達はどうしてElusion
で暮らしているんですか?ダンテとバベルさんの理由は知ってるんですけど…。」
「ほら、きかれていますよワイズ。」
「………。」
  

  
ワイズは黙り込んで紅茶を一口飲む。どうしよう、まずいこときいちゃったかな…?
  

  
「あ、言いたくないなら良いんだよ?」
「なら言わない。」
「うわバッサリ!?」
「お前こそなんでここに勤めてんだ?ヴォルテール出身ならいくらでも仕事はあるだろ。」
 

  


ふいっと顔を背けて私の話題にすり替えるワイズ。
突っ込んできいてみたいところだけど…私は渋々自分の事を話し出す。
  

 
「そうだけど…やっぱりアンシャンテみたいな自然がいっぱいある所に行きたか
ったのもあるの。それにElusionは色々条件が良かったから…。」
「………金か。」
「そっそうじゃなくて!お金は…おいといて、雰囲気とか立地条件よ。」

  

お金は勿論大切だけど私がここを選んだ理由はそんなものだけじゃないんだから…。
ブツブツ文句を言いながら、目の前に広げられている昼間に作ったクッキーに手を伸ばす。
  

   
「だが、よくこんな男だらけの屋敷に来ようと思ったな。
下手したら危ない目にあっていたかもしれないと言うのに。」
「あぁ、そうですよね。」
 

    
初めから住人が全員男性だということは聞いていた。
勿論躊躇いがなかったわけではない。
両親には女性ばかりの屋敷に行くと嘘までついたほどだから。
それでも私が行きたがった理由は…
   

   
「男性ばかりなら…情報が入りやすいと思ったから…。」
「情報…?」
「え?」
「ん??」
「………」
   

  
ぽろっと口に出した言葉にワイズは不思議そうに顔をあげてこちらを見る。
それにわざととぼけて返す様子をクリスさんは物静かに見ていた。
   

   
「あ、明日は朝から街にお買い物行かないといけないんでした!…それじゃあおやすみなさい。」

  


  

   

   

  
  

『カイリ…!』

   

覚えているのは、私を見つめる優しい目…

私は忘れない…

ねぇ、私もう一度貴方に会いたい…貴方に名前を呼んでもらいたい…
  

   

  
私は…貴方を…