Ninths Nightmare Again

2

 

あの後俺は、アイツの細い震える身体を抱き締めホテルに行き、朝まで愛した…
負った傷と痛みを癒すように、俺は優しくルシアを愛した…
アイツらがつけた紅い印の上から俺が優しくキスをして…少しでも痛みを取り除いてやりたかった。

 

 

 

 

 

 

 

『…んっ…』

  

いつのまにか俺は寝てしまっていたらしい。ふと横を見る…
アイツがいなかった。そして窓から見える薄暗い外に目線をやった。

  

『ルシア…?』

 

カサッ…

 

『なんだ…?手紙か?』

  

ベッドの上で触れたのは一通の手紙…そこには紛れもない彼女の字で『バベルへ』と書いてあった。

胸騒ぎがした…手紙を手にした途端急に怖くなった。

手紙を読む勇気はなかった…
 

それよりも早くアイツに会いたくて、会わなくちゃいけないような気がして…

床に散らかした上着を羽織り、外へと飛び出した。
 

  

  

  

   

 

 

 

   

ザザアァ…

  

ホテルの前は海だった…夜明け前の海は静かで、とても淋しい印象を受ける…

  

  

  

『ルシア…ルシアーっ!!』

    

 

  

返事をしてほしい…だけどしないでほしい…。
なんとも言えない気持ちが交差する。責任感の強いアイツの事だ…きっと…

   

  

 

 

 

『…ルシアっ!!』

  

『…バベル…』

    

 

 

 

断崖絶壁の一角にアイツはポツリと立っていた。
俺の送った真っ白なワンピースを着て無表情で立っていた。
俺が叫ぶとこちらを向いて少し驚いた顔を見せた。

  

『手紙…読んだ?』

  

『読んでねぇよ…読む気もねぇ!!』

  

『…そう言うと思った…』

  

穏やかな表情を浮べて立つルシア。
その表情はどうしようもない悲しさからか、空しささえうかがえる。

 

『…何してんだよ!早くこっちに来い!!』

『…ダメ。バベルの元には帰れない…』

『…なんだと?』

   

今にも崩れそうなルシアの足元…俺は焦りながら彼女に近付く。
しかし、彼女は俺から遠ざかるようにジリジリと後退りする。

 

『私、いきたい場所があるの…』

『は?そんなの俺が連れてって…』

  

  

 

 

  

 

 

 

 

 

   

『バベルは行けない場所…だから一人で行くね…』

  

  

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

フッと空気が変わった…。ルシアは涙を堪えるように笑顔を見せた。

   

 

 

 

『…おいっ!?ルシア!!』

   

 

  

アイツ…やっぱり死ぬ気だ!!
必死にアイツの元に走った、手を伸ばした…

 

  

 

 

 

 

 

 

 

  

『バイバイ……………』

 

  

 

 

 

  

 

 

  

 

グラッ…ガララッ…!!

 

  

 

 

 

   

『ルシアーーーーーーっ!!!!!!!』

  

 

 

 

 

だけど…届かなかった…あと少しの所でアイツは何かを呟くように唇を動かすと、
暗く冷たい海の底へと吸い込まれて行った…

 

  

 

 

 

『ルシア…っ…ルシ…ルシアアアァァァ!!!』

  

 

 

泣いた…泣いて泣いて泣き叫んだ…。

そして今まで握り締めていた手紙に気付く。

 

 

 

  

 

 

 

 

『 バベルへ                       
  
きっとこの手紙を読んでいる頃、        
  私は貴方の側にいないと思います。  
           今まで本当にありがとう、貴方に会えてすごく楽しかった。

だけど、もうそろそろお別れしなきゃ。     
       昨日の事が原因っていうわけじゃないから、   
                     本当に気にしないでね。

私は遠い所に行きます、もう会う事もないかな…。
        でも、バベルと過ごした1年は本当に楽しかったよ。
              だから私の事は忘れて新しい道を歩んで下さい。

   絶対に私を探さないでね、バベルはすぐ私に甘えるから。
     
                         
…じゃあね、さようなら。
                      
                                     ルシア 』

   

 

   

 

 

  

 

アイツは、俺に見つからなかったらこの手紙だけ残して自殺するつもりだったのか…?
暗い海に飛び込んで、たった一人で逝ってしまった…。
俺は、後を追えなかった…アイツを一人で置いてきてしまった…

   

   

  

 

 

 

『ルシア…っ』

  

   

 

 

 

 

手紙はぐちゃぐちゃになった…強く握り締めて、止まらない涙で濡らしてしまったから…

   

 

 

  

 

『…深い悲しみは、新しい喜びにより癒されます…』

 

『っ!誰だよ…お前…!』

    

 

  

泣き崩れる俺の後ろから一人の男が出てきた。
黒を基調とした落ち着いた格好に、整った顔立ちの男だった。
いかにも怪しそうな男に俺は警戒の色を見せる。

  

 

 

 

『私はクリス…どうですか?どこにも行く宛がない…生きる意味を見出だせない
…深い悲しみを背負っている…そんな貴方にうちの屋敷はぴったりですよ?』

『…』

『貴方のお名前は?』

   

『…バベル・クランヘイト…』

   

 

何でもよかった…少しでもこの痛みがおさまるなら…誰だろうが何だろうが縋りたかったから…

俺はクリスと名乗る男の後に付いて行った…。彼女からの手紙を握り締めて。